『カミング・ホーム』 老人力は地球を救う?

外国映画

監督は『リトル・ミス・サンシャイン』のプロデューサーとして知られるマーク・タートルトーブ

主演は『ガンジー』ベン・キングズレー

原題は「Jules」。

物語

ペンシルベニア州西部の小さな町で暮らす79歳のミルトンは認知症の初期症状を娘に心配されながらも、受け入れられずに一人暮らしを続けていた。そんなある夜、庭に突如、空から正体不明の飛行物体が墜落し、彼の静かな日常は大きく揺らぎ始める。
周囲に訴えても相手にされない中、同年代の隣人サンディーとジョイスだけが共に飛行物体を目撃し3人は秘密を共有することに。それぞれの孤独を抱えていた3人は忘れかけていた人生の喜びを取り戻し、やがて自らの“これからの人生”と向き合っていく——。

(公式サイトより抜粋)

裏庭にUFOが……

79歳になるミルトン(ベン・キングズレー)は一人暮らしだ。高齢ということもあり、さすがにあちこちガタが来ているようで、娘のデニス(ゾーイ・ウィンターズ)はそれを心配し病院で検査を受けさせようとしている。なぜかトイレの棚に豆の缶詰が置かれたりしているわけで、認知症を疑うのもわからなくもない。それでも頑固なミルトンは検査を頑なに拒むことになる。

『カミング・ホーム』は、そんな老人たちが主人公だ。同居人でもいて賑やかに暮していれば日々も楽しいのかもしれないけれど、本作に登場する3人の老人はみな孤独だ。だから時間を持て余しているということなのか、毎日のように議会に陳情に上がったりする。

ミルトンはしょっちゅう同じことを陳情しているらしい。町のスローガンを変えるべきだということと、横断歩道を設置してほしいということだ。議会の人たちも暇な老人たちにつき合うのも仕事といった感じで、一応、話は聞いてくれているのだが、ある日、ミルトンは「裏庭にUFOが墜落して」などと言い出すことになる。聞いていた町の人たちも当然ながら耳を疑い、とうとうミルトンは耄碌してしまったと呆れられることに……。

©2022 Apple Slice Productions LLC All Rights Reserved.

耄碌した老人の幻想?

日本版の予告編では宇宙船が墜落した場面までは見せているけれど、それ以上は伏せられている。認知症が疑われる老人の言動として、「UFOを見た」などということが一般的なのかどうかはわからないけれど、恐らくミルトンは何かしらの幻想を見ていると思うのが普通だろう。

観客としてもどんなオチが用意されているのかと待ち構えていたわけだけれど、実はUFOも宇宙人も実在していたというのが、本作の面白いところだろう。老人版『E.T.』といった趣きなのだ。

ミルトン一人が宇宙人とやり取りしている時には、それが幻想だったとしても不思議ではなかったのだが、ある時、陳情仲間のサンディ(ハリエット・サンソム・ハリス)がミルトンの家にやってきて仰天することになる。ミルトンの家のソファーに宇宙人が座っていて、ごく普通にリンゴを食べていたからだ。

こうなってくると宇宙人がミルトンの幻想であるという疑いは消え、ようやく観客としてもその存在を信じるほかなくなる。さらにはもう一人の陳情仲間のジョイス(ジェーン・カーティン)も現れ、三人の老人と宇宙人の奇妙な関係がスタートすることになるのだ。

宇宙人はジュールズと名付けられる。ジュールズは何をするわけでもないし、言葉も発しない。だからミルトンたちの言っていることを理解しているのかどうかはわからない。ただ、ジュールズは相手の目を見て話を聞いてくれる。だから寂しい老人たちは、ついついジュールズを相手に問わず語りに自分のことを話してしまうことになり、それが老人たちにとっては何よりも嬉しいらしい。

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「老人力」とは?

本作を観ているとかつて流行った「老人力」という言葉を思い出す。「老人力」というのは、「ボケてきた」という否定的な言い方を、「老人力がついた」などとポジティブな言い方をするだけということらしい。実際に起きている現象は同じでも、見方を変えれば悪いことばかりではないと考えてみようということなのだろう。

本作の場合も、ジュールズが最初に出会った地球人がミルトンという老人だったからこそ、ほのぼのとしていい話になったのだ。

通常、宇宙人に遭遇したらどうするだろうか? エイリアンとの遭遇を楽観的に描いていた『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の場合は、主人公はエイリアンに対して友好的に振舞うことになるけれど、これはやはり特殊例であって、大方の場合はそうはならないだろう。

異星からやってきた何者かが、どんな思惑を持っているのかもわからないし、こちらに危害を加える可能性だってあるからだ。

ミルトンも最初はUFOを怖がったりして騒ぐことになるけれど、誰もミルトンの言葉を信じてくれず、そうしているうちにミルトンも宇宙人の存在に何となく慣れていってしまうのだ。

耄碌した老人は危機意識というものも薄れているということなのかもしれない。しかしながら、そんな老人力があればこそ、ジュールズは地球人にヘタに騒がれずに済んだというわけだ。

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老人力は地球を救う?

ミルトンが耄碌しているというのは、たとえば子どもっぽい振舞いとしても現れている。ミルトンは、ジョイスがジュールズの存在をほかに漏らすおそれがあると判断すると、「殺してしまおう」とまで言い出す(しかも二度も)。さらには宇宙船の燃料に猫の死骸が必要ということがわかると、ジョイスの猫を殺そうとあっさり言い出すのもミルトンなのだ。まさに老人力があればこそ、ジュールズは助かったと言えるわけだ。

しかし実際に助かったのは、地球人のほうだったのかもしれない。ジュールズは背丈は子どもくらいで非力に見えるけれど、実は念力のような力がある。サンディが男に襲われた時は、その男の頭を爆発させてサンディを助けるのだが、人を始末することなど簡単なのだ。

もしもジュールズに対して地球人たちが敵対するような振舞いを見せていたらどうなっていただろうか。政府はジュールズを捕えようとしていたわけで、そんなことになった場合、地球人たちの被害はもっと大きくなっていたことが推測されるわけで、もしかすると老人力が地球を救ったとも言えるのかもしれない。

予想外の展開が楽しい作品で、老人たちの姿がほのぼのしていて微笑ましい。90分に満たない小品だけれど、案外拾いものかもしれない。宇宙船の燃料のために猫を殺すことが必要になるというのは謎だけれど……。

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