『万事快調〈オール・グリーンズ〉』 なぜ東海村なのか?

日本映画

原作は波木銅の松本清張賞受賞の同名小説。

監督・脚本は『猿楽町で会いましょう』児山隆

主演は『愛されなくても別に』南沙良と、『か「」く「」し「」ご「」と「』出口夏希

物語

ラッパーを夢見ながらも、学校にも家にも居場所を見いだせず鬱屈とした日々を送る朴秀美(南沙良)。
陸上部のエースで社交的スクールカースト上位に属しながらも、家庭では問題を抱えている映画好きの矢口美流紅(出口夏希)。
未来が見えない町で暮らすどん詰まりの日々の中、朴秀美が地元のラッパー佐藤(金子大地)の家で〇〇〇〇を手に入れる。その出来事をきっかけに、同級生で漫画に詳しい毒舌キャラ岩隈真子(吉田美月喜)、岩隈の後輩で漫画オタクの藤木漢(羽村仁成)らを仲間に引き入れ、同好会「オール・グリーンズ」を結成、〇〇〇〇の栽培に乗り出す。
人生を諦めるのはまだ早い!自分たちの夢をかなえるために、この町を出ていくには、一攫千金を狙うしかない!
そして、学校の屋上で、禁断の課外活動がはじまる―—

(公式サイトより抜粋)

未来の見えない場所

タイトルを見ると何だか威勢が良さそうな感じはするけれど、実際には「万事快調」とは言い難い若者たちの話だった。主人公たちはある田舎の工業高校の女の子だ。彼女たちはそれぞれに問題を抱え、未来を想像することもできないでいるのだ。

たとえ夢が叶うことがなくとも、若い頃に大いに夢を抱くことは悪いことではない気はするけれど、どうも今の若者は達観しているようにも見える。

オール・グリーンズを結成することになる3人の主人公は、それぞれやりたいことを持っている。朴秀美(南沙良)はラップが好きで、矢口美流紅(出口夏希)は映画好きだ。岩隈真子(吉田美月喜)は漫画好きで新人賞に応募したりもしている。それでも好きなことをやって生きていくほど甘くないと悟り切っているのか、その道で生きていこうなどということはあまり考えないらしい。

確かに今の日本には夢を抱けるような景気のいい話はないかもしれない。本作の主人公たち3人も未来がまったく見えないからこそ、一足飛びに犯罪行為に手を染めることになるのだ。

ある夜、3人は交差点で交通事故に遭遇する。子どもを抱きかかえた女性が車にはねられるのだ。詳細は謎だけれど、その女性は旦那だった男を殺し、家に火を放ったらしい。そして、その交通事故の後に彼女は子どもを道連れに自殺したらしい。何とも酷い話だ。

そんな女性の姿を目撃した3人は、このままでは彼女の二の舞になると思ったのか、金儲けのために大麻の栽培に手を染めることになるのだ。金さえあればクソな田舎からは脱出できると考えたのだ。

©2026「万事快調」製作委員会

なぜ東海村なのか?

『万事快調〈オール・グリーンズ〉』の舞台となっているのは、茨城県の東海村だ。原作者は茨城県日立市の出身で、その隣が東海村ということになる。原作者がわざわざ隣の東海村を舞台に選んだのには意味があるだろう。

劇中に出てくる看板の「東海村へようこそ」というメッセージのそばには、「何もないけれど」などと落書きがされている。確かに東海村には何もないように思える。しかし、東海村にはほかの田舎にはあまりないものがある。それが原子力発電所だ。

劇中では原子力発電所についてはほとんど触れられることはない。映画が好きな矢口美流紅が近くのミニシアターでリバイバル上映している『太陽を盗んだ男』の話をする中で、主人公の男がプルトニウムを強奪することになるのが東海村にある原子力発電所なのだと自慢げに解説してみたりはするけれど、それ以上原発についての話題はないのだ。

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原子力発電所からプルトニウムを強奪して原爆製造に成功した中学校の物理教師が、国家を相手にして孤独な戦いに挑んでゆく姿を描く。バスジャック、原発襲撃、カーチェイスなど息もつかせぬ見せ場の連続で、当時の日本映画の常識を打ち破る毒のある壮大な娯楽...

ただ、東海村にとって原発はなくてはならないものだろう。矢口美流紅の父親は原発に勤めていたという設定だ。その父親が自殺したことで、矢口美流紅の母親はちょっとおかしくなってしまう。これを矢口美流紅は「広義のゴジラ」と茶化すことになるけれど、原子力というものによって一種のモンスターとなってしまったのが彼女の母親ということになる。とはいえ、東海村において原発が大きな雇用を生み出している重要な産業であることは確かだろうし、原発があることによって村が潤っているのだ。

ちなみに平成の大合併では、全国の自治体の多くが合併することになったけれど、東海村はほかの市町村と合併せずに東海村のままで存続している。これは村の財政が豊かだからなんじゃないだろうか。

茨城県において“村”は、東海村とあと一つしかないとのことで、東海村が未だに存続しているのは原発があったからなのだろう。

©2026「万事快調」製作委員会

何を言わんとしているのかと言えば、東海村にとっての原発と、主人公たちにとっての大麻は、同じようにヤバいものだということだ。3人は大麻を栽培して金を稼ぐことになったけれど、それによって危険な目にも遭遇することになる。朴秀美は大麻の種をある人物から盗んだわけで、そこからの横槍が入ってくることになるからだ。

東海村もヤバいものに手を出した。原発では何度かトラブルも生じているけれど、今のところ決定的な大災害とまでは至っていない。しかしながら先の東日本大震災における隣県の福島原発を見ればよくわかるように、原発が大きなリスクを抱えていることは明らかだろう。

ヤバいものに手を出したからこそ、東海村は潤っているとも言えるのだ。そんなわけで大麻に手を出す女子高生と、原発頼りの東海村は似たようなものだというのが本作が示していることなのだろう。

©2026「万事快調」製作委員会

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爽快だった?

やさぐれたラッパーの南沙良と、あるトラブルで落ちぶれたけれど元はスクールカースト上位に位置した魅力的な出口夏希。それから毒舌キャラだけど一番真っ当な吉田美月喜。そんな3人のキャラが個性的で楽しい。

ただ、女子高生が大麻を売りさばくということにあまりリアリティは感じなかった。だとしたら、ラストで屋上から飛び降りる朴秀美のように、もっとファンタジーに振り切ってもよかったのかもしれない。ほとんど自殺行為に思えたこの場面は心地よかったし、そこから走って逃げていくところは悪くなかったけれど、結局はそれも夢だったかのような現実的なエピローグも加えられている。

一応、そのエピローグについては矢口美流紅が否定することになるけれど、しょぼい現実は否定できてもやはり夢は描けないということを示してしまっているようにも思えた。

尤も、最初から「やられっぱなしはムカつかない?」という意識であったわけで、苦し紛れの抵抗としてはスッキリしたということなのだろうか? ちょっと爽快とは言い難いような気もした。

東海村は「何もないクソ田舎」みたいな罵声を浴びせられていたけれど、本作を応援しているらしい。風光明媚な観光映画とはほど遠いけれど、原発が見える海沿いの場所はちょっとシュールだった。あんな場所でピクニックをする人は普通はいないと思うけれど……。

映画好きの矢口美流紅は近くのミニシアターに通って楽しんでいるというのだが、こんな田舎にそんな場所があるのかと調べてみると実在の「あまや座」というミニシアターとのこと(実際には隣町みたいだけれど)。だから田舎にいてもゴダール映画に触れる機会もあるということらしい。とはいえ、本作に出てくる作品なら、TSUTAYAやブックオフでも見つかるかもしれない。本作のタイトルは当然ながらゴダール作品から採られている。

それでもこんな施設があるのは意外で、東海村としても一応は村の宣伝にはなっているということで、多少の悪口は大目に見たとしたということだろうか。

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