『レンタル・ファミリー』 嘘も方便

日本映画

監督・脚本は『37セカンズ』HIKARI

共同脚本には『37セカンズ』では撮影を担当していたというスティーブン・ブレイハット

主演は『ザ・ホエール』のブレンダン・フレイザー。

物語

東京で暮らす落ちぶれた俳優フィリップは、日本での生活に居心地の良さを感じながらも、本来の自分自身を見失いかけていた。そんな中、“レンタル家族”として他人の人生の中で“仮の”役割を演じる仕事に出会い、想像もしなかった人生の一部を体験する。

(公式サイトより抜粋)

レンタル家族という仕事

2016年に公開された『リップヴァンウィンクルの花嫁』(岩井俊二監督)には、「レンタル・ファミリー」とよく似た仕事がちょっとだけ描かれていた。『リップヴァンウィンクル』の場合、まだ「レンタル・ファミリー」とは名乗っておらず、“何でも屋”が結婚式の招待客を人材派遣する形になっていた。その時は、「そんな商売があるものなのかな?」とも思いつつも、同時にそれほど奇妙な商売とも思えなかった気もする。世間体を気にしがちな日本ならあり得る話だろうと思えたのだ。

『リップヴァンウィンクル』の公開から10年以上経つわけだけれど、「レンタル・ファミリー」といった商売は実際に存在するらしい。とはいえ、それはあくまでも日本独自のもので海外にはないらしい。

探してみると似たような題材を扱っている作品はすでにいくつもあり、それらはやはり日本の映画となっている。たとえば2023年には『レンタル×ファミリー』(阪本武仁監督)という作品があり、昨年も『レンタル家族』(上坂龍之介監督)という作品が公開されている。『リップヴァンウィンクル』の時は、“何でも屋”の仕事ということになっていたけれど、今ではすでに「レンタル・ファミリー」という仕事だけで商売が成立することになっているということなのかもしれない。

「レンタル・ファミリー」という仕事は日本独自のものだと記したけれど、『レンタル・ファミリー』ではそこにいわゆるガイジンが絡んでくることになる。これは共同脚本のスティーブン・ブレイハットの経験が活かされているということのようだし、HIKARI監督は大阪出身の日本人とはいえ、長らく海外で活動されているということで、ガイジン目線で日本の様子を見ているところがあるのだろう。

©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

日本の同調圧力

主人公のフィリップ(ブレンダン・フレイザー)は、かつてはCMの出演で一躍有名となったらしい。ところが俳優として日本でやっていこうとしてもガイジン役という枠が少ないからなのか、ほとんど仕事はなくテレビの再現ドラマなどで何とか生活している状態らしい。そんな中でフィリップは「レンタル・ファミリー」という仕事に出合うことになる。

俳優という仕事は、虚構の中で与えられた役割を演じることだろう。一方で、「レンタル・ファミリー」の仕事は、他人の人生の中で“仮の”役割を演じることとされる。「他人の人生」というのは、つまりは現実だ。そこで“仮の”役割を求めている人がいるというわけだが、これは言い換えれば“嘘の”役割とも言える。

実際にはその役割をする人がいないからこそ、それがレンタルされる必要があるというわけだ。劇中にはゲームの相手がいないから、そんな役割の友達をレンタルする人もいた。

フィリップは性風俗でそうした相手を見つけていたけれど、これも似たようなものだろう。フィリップも恋人といった存在がいないから、そうしたサービス業の女性(安藤玉恵)を求めていたわけだ。この場合、嘘の役割を求めているのは、依頼主本人ということになる。しかし日本の場合、そうではない場合があるのかもしれない。

たとえば『リップヴァンウィンクル』では、結婚式の招待客という役割の人たちが必要とされていた。これは恐らく世間体を取り繕うためだろう。依頼主自身はそんなものは必要としてなくとも、周囲がそれを求める場合があるのだ。『レンタル・ファミリー』の場合も、似たようなシチュエーションが用意されている。

顧客の女性(森田望智)はガイジンの結婚相手を求めていたらしい。というのは、この女性の両親や親戚一同を納得させ、余計な圧力から逃げるためにも、海外へ脱出したと偽装する必要があったからだ。彼女は同性愛者で、パートナーと一緒に暮らすには、そうした手段を採るほかなかったということなのだろう。彼女自身はそんな偽装をする必要は感じていなくとも、周囲を納得させるにはそうするしかなかったのだ。世間を相手に闘うよりも、そこを何とか取り繕ったほうが楽ということなのだろう。このあたりはとても日本的なものを感じた。

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その仕事の功罪

「レンタル・ファミリー」の仕事は、嘘の役割を演じることだった。その嘘を依頼主が求めている場合は何の問題もないだろうし、嘘によって事態が丸く収まる場合もあるだろう。しかしながら、それに子どもが巻き込まれるとなると事情が変わってくる。

本作において中心的なエピソードとして、“お受験”合格のために父親を必要としている美亜(ゴーマン シャノン 眞陽)のエピソードがある。この場合、依頼主は美亜の母親だ。美亜自身は“お受験”の合格など望んでいないかもしれないけれど、母親は彼女のためにそれを望んでいる。

そして、日本の“お受験”ではなぜか片親だと不利になるということがあるようで、そのために彼女は嘘の父親をフィリップに演じてもらうことを求めたというわけだ。しかも母親はフィリップに美亜の本当の父親のフリをすることを求めるのだ。これももしかすると美亜自身には嘘をついて欲しくなかったという優しさなのかもしれないけれど、そもそも最初の設定に嘘が混じっているわけで後になってトラブルが生じることになる。

さらにもう一つの中心となるエピソードでは、フィリップは認知症が進行しているかつての名俳優の長谷川(柄本明)に対して、その自叙伝を記すという名目の取材記者を演じることになる。ところがここでもフィリップは自分に与えられた役割を逸脱していってしまう。

フィリップは人のいいところがあり、虚構ではない現実世界でも役割に徹し過ぎてしまうのだろう。それがどちらも悪い方向に働いてしまうのだ。そんなわけで「レンタル・ファミリー」という仕事は色々と厄介な問題を孕んでいるとも言える。

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嘘も方便

「レンタル・ファミリー」の仕事は嘘をつくことだ。しかしながら、その嘘には良いものと悪いものがあるのかもしれない。「嘘も方便」というわけで、すべての嘘が悪いわけではないのだろう。しかしながら、美亜のような何も知らない子どもを騙すことにはやはり問題があるわけで、フィリップはあとになってその後始末をしなくてはならなくなる。

とはいうものの、本作は「レンタル・ファミリー」という仕事を悪いものとしては描いていない。HIKARI監督の前作『37セカンズ』は、題材としては障害者を扱っているけれど、そこからスタートして様々な人との出会いによって世界が広がっていく。本作においてもそれは同様だ。「レンタル・ファミリー」という仕事もまた、人と人がつながる仕事なわけで、色々と問題は孕んでいてもそれをポジティヴに捉えているのだ。

意外だったのはラスト近くで明らかになる「レンタル・ファミリー」会社・社長(平岳大)の家族のエピソードだ。社長には奥様(板谷由夏)と息子がいると思っていたのだが、実はこの家族は社長自身がレンタルしていたものだったのだ。最初はちょっと戸惑うエピソードだろう。しかし、よく考えれば、社長の思いも見えてくる。

恐らく社長もそんな家族を求めていたけれど、現実にはそれが得られなかったのだろう。彼の仕事はそんな顧客の要求に応えることなわけで、そのためにも自分でその求めるものをレンタルしていたということなのだろう。自分が提供しているサービスに自分で納得できなければ、それを顧客に与えることはできないわけで、社長が自ら家族をレンタルしていたというのはそういう意図だろう。

このことはフィリップと社員の愛子(山本真理)の会話からも察せられる。二人は自身が「レンタル・ファミリー」を利用するとしたら、誰を望むかと議論していた。フィリップはそれに対して亡くなった母親だと答えていたわけで、本作では誰にでもそうした願いはあるということが前提になっている。こういう場合の嘘は誰も傷つかないわけで、「嘘も方便」ということになるのだろう。

一方でそんなふうには言えないような嘘も描かれていた。奥様を納得させるために不倫相手を演じさせるというものだ。この場合、依頼主は自分の仕出かしたことに向き合わず、単にそれを金で解決しようとしている。それに愛子という社員は巻き込まれて暴力沙汰になってしまったわけだ。これは「嘘も方便」とは言えないような悪い嘘ということになるのかもしれない。最終的にはそうした依頼は断ることになったようだし、事業内容を少しずつ改善しながら「レンタル・ファミリー」の仕事は続いていくのだろう。これまた前作と同様で、前向きで希望がある終わり方になっている。

ブレンダン・フレイザーの魅力があればこその作品だった。特殊メイクで巨大化していた『ザ・ホエール』ほどではなくとも、日本人の中に混じると改めてブレンダン・フレイザーの身体は「デカい」という印象だったけれど、電車の座席に窮屈そうに座るところに人のよさみたいなものが溢れている。柄本明とのやり取りは面白かったけれど、そのエピソード自体はあまりガイジンである必要もないし、全体の中ではちょっと据わりが悪い気もした。

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