『MERCY/マーシー AI裁判』 疑わしきは罰せよ

外国映画

監督は『ウォンテッド』などのティムール・ベクマンベトフ

主演は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』クリス・プラット

原題は「Mercy」。

物語

凶悪犯罪が増加し、厳格な治安統制のためにAIが司法を担うことになった近未来。ある日、敏腕刑事のレイヴンが目を覚ますと、妻殺しの容疑で〈マーシー裁判所〉に拘束されていた。冤罪を主張する彼だったが、覚えているのは事件前の断片的な記憶のみ。自らの無実を証明するには、AIが支配する世界中のデータベースから証拠を集め、さらにはAI裁判官が算出する”有罪率”を規定値まで下げなくてはならない。無罪証明までの〈制限時間は90分〉。さもなくば〈即処刑〉――。

(公式サイトより抜粋)

AIが裁判を担う世界

正直、それほど大きな期待もせずに観に行ったのだけれど、矢継ぎ早の展開で100分を駆け抜ける見事なエンターテインメント作品だった。

劇中の世界は近未来のアメリカだ。凶悪犯罪が増加し、真っ当なやり方では対処できなくなり、AIが司法を担うことになった世界なのだ。容疑者に与えられた時間は90分で、映画はそれをほぼリアルタイムで描くことになる。前後の余白時間を含めて全部で100分だ。始ったら「あっという間」という感じの100分だった。

本作のスタイルは『search/サーチ』シリーズなどのスタイルを踏襲している。『search/サーチ』シリーズは、全編がPCの画面上だけで展開していくというもので、これは「スクリーンライフ映画」とも呼ばれるものらしい。

このスタイルを完成させたのが、本作の監督であるティムール・ベクマンベトフだ。ティムール・ベクマンベトフは『search/サーチ』シリーズではプロデューサーとして参加していたけれど、今回は満を持してということなのか監督もこなしている。

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『MERCY/マーシー AI裁判』の場合、誰かのPC上で物語が展開するわけではない。舞台となっているのは裁判所だ。そこにはAI裁判官と、容疑者がいる。容疑者はすでに椅子に固定されていて逃げられない状態になっている。この状態で容疑者は自分の無実を証明しなければならず、それができなければその椅子がそのまま“電気椅子”になるというわけだ。

『MERCY/マーシー AI裁判』は、この容疑者とAI裁判官の切り返しショットが基本になっている。そして、この裁判では世界中の様々なデータベースにアクセスすることが可能となっているために、容疑者の前に設置されたスクリーンには、事件に関する様々な情報(動画やライブ映像、メールなど)が次々と映し出されていくことになる。

ほとんどそのスクリーン上で話が展開していくものの、動画が再生されればそれが別の場所へアクセスしたことと同様の意味を持つことになり、次々と場面は変わっていくし、さらに派手なアクションなどもあって最後まで飽きさせないのだ。

© 2025 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

妻殺しの容疑者とAI裁判官

本作の主人公であり、AI裁判の容疑者とされるのがレイヴン(クリス・プラット)という刑事だ。レイヴンは妻殺害の容疑で逮捕されたのだ。レイヴン自身は酒の飲みすぎからか、そのことはまったく記憶にないと言う。しかし、状況はレイヴンにとってはあまり好ましくはない。

事件の当日、レイヴンは朝から奥さんと口論している。そして、その口論後に家を出ていって、バーで飲んだくれて逮捕されることになるのだが、その後に帰宅した娘が母親の遺体を発見することになるのだ。その間、家に出入りしたものはなく、状況証拠からしてレイヴンが容疑者とされたのだ。

そんな容疑者を裁くのが、AI裁判官であるマドックスだ。マドックスを演じるのは『ミッション:インポッシブル』シリーズや『ハウス・オブ・ダイナマイト』などのレベッカ・ファーガソンだが、このAI裁判官は特段人の姿をしている必要はないはずだ。それでも映画としては、声だけではあまりにも味気ないという判断なのだろう(そもそもAI裁判が90分という時間制限があるのも、1本の映画にうまく収まるようにという設定なわけだし)。そんなわけでマドックスのビジュアルはお飾りみたいなものなわけだけれど、レベッカ・ファーガソンの左右対称な顔とつるりとした肌感がAIらしい雰囲気を醸し出している。

この二人のやり取りがなかなか面白い。合理的な判断をするマドックスに対し、直観に頼るレイヴン。レイヴンの直観はある場面では行き詰まった状況を突破するきっかけにはなるけれど、そのまま突っ走ってしまい大事なことを忘れていることをマドックスに指摘されたりもする。AI裁判官としても何が何でもレイヴンのことを死刑にしようというわけではなさそうなのだが……。

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疑わしきは罰せよ

そもそも現実世界の裁判では「疑わしきは罰せず」ということが基本になっている。状況的にどう見ても犯人だろうと思われたとしても、検察側をそれを立証しなければならないわけで、それができなければ疑わしくても無罪となる。

ところが本作のAI裁判の場合、それがひっくり返ってしまっている。犯罪率も増加しているし、犯罪者に対しての抑止力ということもあり、「疑わしきは罰せよ」ということになってしまっているのだ。だからAI裁判に連れて来られた容疑者は、自ら無実を証明しなければ、そのまま死刑ということになってしまう。

「スクリーンライフ映画」では、普段は隠されている個人のプライベートな情報が暴かれていくことになる。特に今回の場合、AI裁判の当事者は世界中のデータベースにアクセスすることが許されており、そんな権限があれば「無実くらい証明できるはず」というふうに考えられているらしい。

確かに今の世界では、監視カメラは至るところに付いているし、個々人のスマホでも動画やら写真が撮られ、それらはネット上にアップされたりしている。自分の姿をそうしたデータにまったく残すことなく生活することなど不可能と言ってもいい。

AIは事実が大切で、事実に基づいて判断するという。確かに残っている証拠から判断すれば、レイヴンが一番あやしいということになるわけだが、証拠が見つかっていない場合も考えられる。しかしながらAIはそうしたことは考慮に入れないらしい。見つかっている事実をもとに合理的に判断するだけで十分とされてしまうのだ。

最初はレイヴンがあやしいと思っていた観客も、奥さんが抱えていた仕事上の秘密が明らかになってくると、どうにもキナ臭いものを感じるだろう。しかしながらAIはそこをもっと突っ込んで捜査しようとは考えないらしい。「キナ臭い」などというような感覚はAIにはないのだろう。

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本作を観ながら『マイノリティ・リポート』を思い出した。『マイノリティ・リポート』は本作とは状況は異なるけれど、似ている部分もある。

『マイノリティ・リポート』は犯罪を未然に防ごうする近未来の話で、そこで活躍するのがプリコグと呼ばれる超能力者だ。このプリコグは3人いて、それらの予知によって犯罪者を事件が起きる前に逮捕しようというシステムなのだ。

ところがこのシステムでは3人の予知能力者の予知に食い違いが起きることがある。それでもシステム全体の運用のことに鑑みて、そのマイノリティ・リポート(少数意見)は無視されてしまうことになるのだ。予知能力者も間違うことがあるわけだが、それが「大いなる正義」のために無視されてしまうというわけだ。

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これと同じことがAI裁判でも起きているのだ。AIも間違う可能性がある。実は真犯人はうまくデジタルデータには残らないような方法で殺人を計画したのだが、AIは存在しない証拠というものを考慮することはできないらしいのだ。

そもそもそんなシステムが認められてしまうことに問題があったとも言えるけれど、「大いなる正義」という大義によって細かいことが無視されるということはあり得るのかもしれない。最終的にはやはり「疑わしきは罰せず」というところへ戻るほかないということになるのだろう。そんな意味ではAIの使い方には問題ありとは言えるけれど、無実の男が追い詰められるサスペンスとしては文句なしに楽しかった。

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