『恋愛裁判』 アイドルの不思議

日本映画

企画・監督・脚本は『LOVE LIFE』深田晃司

主演は日向坂46の元メンバーである齊藤京子

カンヌ国際映画祭のカンヌ・プレミア部門の正式出品作品。

物語

人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへと駆け寄る。その8カ月後、事態は一変。所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長の吉田光一、チーフマネージャーの矢吹早耶らによって、法廷で厳しく追及されることとなる。

(公式サイトより抜粋)

恋愛禁止という暗黙のルール

本作は実際にあった裁判をもとにしているらしい。元アイドルが「恋愛禁止」というルールを破ったため、所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられたというのだ。アイドルの暗黙のルールとして「恋愛禁止」ということがあるのは知っていたけれど、それはあくまでも建前なのかと思っていた。ところが実際にそれを盾にアイドルを訴えた事務所があったのだ。

そもそもアイドルという存在は、日本独自に発展してきた部分があるらしい。たとえばかつてのジャニーズのような存在は、海外にはあまりいないんじゃんないだろうか(ジャニーズは男性アイドルではあるけれど)。アーティストという括りの人でそれに近い人もいるのかもしれないけれど、日本のアイドルは独特なものがあるのだろう。

そんなアイドルが「恋愛禁止」という暗黙のルールを背負っているのは、アイドルという存在がファンとの疑似恋愛的な関係が基本になっているからということらしい。

いわゆるアイドルというものにそれほど熱を上げたことがない者としては、ファンの求めるものがわかりかねる部分はあるけれど、劇中の裁判では「アイドルには清廉性が求められる」とされているわけで、「後ろめたいことがない」ことが求められるということらしい。疑似恋愛の対象であるアイドルが、舞台を降りたらほかの男性と付き合っているとなったら興醒めということなのだろう。

©2025「恋愛裁判」製作委員会

アイドルから被告人へ

『恋愛裁判』は2部構成のような形になっている。前半は主人公である山岡真衣(齊藤京子)がアイドルとして活躍している時期を描き、後半になると一転して裁判の場面が中心となってくる。

真衣は暗黙のルールのことはもちろん知っている。マネージャー(唐田えりか)から細かいことを色々と注意されてもいたからだ。しかしメンバーの菜々香(仲村悠菜)の恋愛騒動があり、熱狂的なファンが彼女たちを襲撃するという事件が起きてしまう。

真衣はそのちょっと前に大道芸人をしている間山(倉悠貴)と知り合っている。間山は実は真衣の中学時代の同級生だったのだ。偶然に再会し親しくなるものの、菜々香の恋愛騒動のこともあり、それ以上のことは躊躇している時期でもあった。

ところが襲撃事件が真衣の意識を変えてしまう。もしかすると死ぬかもしれないと感じた時、真衣の頭に浮かんだのは間山だったのだ。そして、襲撃事件の後、真衣は突発的に間山のところへ走り出し、アイドルとしての活動を放棄することになってしまうのだ。そのことが真衣を裁判の被告人とすることになる。

事務所は真衣が会社に損害を与えたとして、800万円の損害賠償請求をする。こうして真衣はそれまで一緒に働いてきた社長やマネージャーから訴えられる形となり、被告人として裁判に駆り出されるのだ。

©2025「恋愛裁判」製作委員会

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裁判の行方は?

ファンとの疑似恋愛がアイドル業界のビジネスモデルとはいえ、「恋愛禁止」というのは人権の侵害なんじゃないか? 『恋愛裁判』はそういうところに踏み込むわけだけれど、今ひとつ歯切れが悪い気もする。

アイドル業界を糾弾する方向に的を絞ることもできたのかもしれないけれど、それをしないことを選んだからだ。そのあたりは公式サイトの深田晃司監督のインタビューに詳しく書かれている。

だから肝心の裁判の行方についても曖昧な形で終わっているようにも見える。真衣は事務所から訴えられ、賠償金を払うかどうかという話になっていたけれど、事務所の状況が変わったこともあり、突如和解の話が持ち上がる。間山はそれに応じることになるけれど、真衣は最後まで闘うことを選ぶのだ。ただ、その結果が詳しく示されることはない。

真衣は恋愛に走ったことでアイドルを辞めざるを得なくなった。一方で、恋愛騒動は起こしたけれど、その相手と別れて再出発を果たした菜々香は、さらに人気を獲得することになる。

真衣は、アイドルを辞めざる得なくなったことは後悔しているのだろう(道端での唐突な涙がそれを示している)。しかしながら、恋愛禁止ということ自体はおかしいとも感じている。そのどちらも描こうとしたというわけで、裁判の結果だけに焦点を合わせるとおかしなことになってしまうということなのだろう。深田監督は、インタビューで「複雑なものを複雑なままに」と語っていて、その結果が歯切れの悪さにつながっているのだろう。

©2025「恋愛裁判」製作委員会

アイドルの不思議

本作を観ているとアイドルは不思議な存在だとも感じられる。間山がやっていた大道芸は、彼がすべてを自分で決定し、彼がやりたいことをやっていた。一方でアイドルはバックに多くの人がいる。プロデューサーやら曲を作る人たちやら、そういう大人たちだ。アイドルは一種の操り人形のようにも見えるけれど、そんな存在になりたい女の子は後を絶たない。

劇中で真衣は「ずっとアイドルになりたくて」云々と裁判で語るところがある。こうした設定はそれを演じている元アイドルである齊藤京子とも共通しているらしい。そして、その齊藤京子のアイドルは元AKB48の大島優子なのだそうだ。

齊藤京子は大島優子のようになりたくて、彼女に憧れてアイドルになったということだ。その関係性に男性ファンが入り込む隙はないわけで、アイドルはそのあたりをどんなふうに捉えるのだろうか? とはいえ、男性ファンがいなければビジネスは成り立たないわけで、やはり疑似恋愛的な関係は必要不可欠ということなのだろう。

本作はアイドルの存在を否定しない。それは日本独自に発展した“何か”で、これからも受け継がれていくものなのだろう。真衣はアイドルを目指す子どもたちにダンスを教える仕事をするとも語っていたけれど、ファンはいなくても歌やダンスをすること自体が楽しいということだろうか。そんなわけでアイドル業界の一部を否定しつつ、アイドル自体は肯定するというわけで、なかなか難しい題材だったのかもしれない。

個人的にツボだったのは、『Cloud クラウド』でも触れた吉岡睦雄だ。今回の吉岡は原告側の弁護士として登場している。いつもは甲高い声が印象的なのだが、今回は声のトーンを押さえている。予告編でも聞いていたはずの「アイドルには清廉性が求められる」云々の台詞は、まったく吉岡睦雄の声とは思えなかった。名バイプレーヤーには堅物の弁護士だってお手の物というところだろうか。

それからアニメファンなら誰でも知っているのだろうが、事務所の社長を演じていた津田健次郎『呪術廻戦』の七海建人役の声優でもあるのだとか。津田健次郎は『かくかくしかじか』などでも見ていたはずだし、いい声だとも感じていたけれど、『呪術廻戦』の七海役の声優と同一人物というのは初めて知って驚いた。声もいいけど、顔もいいという……。

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