『トゥ・ランド』 久しぶりのハル・ハートリー

外国映画

監督・脚本は『トラスト・ミー』『シンプルメン』ハル・ハートリー

主演は『シンプルメン』のビル・セイジ

原題は「Where to Land」。

物語

58歳のジョー・フルトン(ビル・セイジ)は、かつてロマコメ映画で人気を博した映画監督。最近は半ば引退状態で、屋外で身体を動かす仕事がしたいと近所の墓地の管理人の仕事に応募する。
さらに弁護士の勧めに従って遺言書を作りはじめることに。将来何かあった場合のために、有形無形の資産の行き先を決めなくてはならないらしい。気がつけばさまざまな物に囲まれている生活に、ジョーは愕然とする。
ジョーの恋人でTVスターのミュリエル(キム・タフ)と姪のヴェロニカ(ケイトリン・スパークス)は、ジョーの普段とは違う様子から「ジョーの余命わずかで密かに終活中」だと思い込む。やがてウワサがウワサを呼び、友人、知人、元妻、自称隠し子の若者らが、よってたかってジョーのアパートに押しかけてくる。

(公式サイトより抜粋)

持つ人の苦労

特段遺すほどのお金を持っていない人にとっては無関係のことになるけれど、持つ人は持つ人なりに面倒なこともあるらしい。本作の主人公はかつてはそれなりに人気を博した映画監督ジョー・フルトン(ビル・セイジ)だ。金もそこそこあるのだろうが、彼が製作した映画の権利というものも資産に入るということらしく、そうした資産を誰に遺すのかということで遺言書が必要になったのだ。

劇中に登場する墓場の清掃人(ロバート・ジョン・バーク)は、財布の中にメモ書きみたいな遺言書が入っている。そこには「ここに電話してくれ」という番号だけが記載してあるらしい。遺すものはないけれど、死んだことだけ知らせてくれということだろうか。そんなふうに身軽なほうが死ぬのも気楽かもしれない。持つ人は死ぬ前に死んだ後のことをアレコレと思い悩む必要があるのだ。

ジョーは弁護士に言われてようやく遺言書の作成に着手したのだが、周囲はそんなジョーの様子を見て勘違いしてしまう。遺言書なんてものが必要になるのは、死が間近に迫っているからだろうと勝手に推測して周囲のほうがざわつくことになってしまうのだ。

©Hal Hartley / Possible Films, LLC

水割りビールは美味しいか?

めいのヴェロニカ(ケイトリン・スパークス)や恋人のミュルエル(キム・タフ)は彼が密かにやっていることを知って驚き、彼の心配をする。しかし、その一方でジョーのことを父親と思い込んだ男は、彼の遺産のことが気になって彼につきまとうことになる。周囲が急に騒がしくなるのだ。

ジョーの身なりや佇まいはとてもシャレている。セミリタイアしても十分やっていけるほどの資産もあり、時間もあるから外で身体を動かす仕事がしたいと墓場の清掃員なんてものをやろうとしている。

出てくる人のほとんどはそんな感じでみんなシャレている。めいのヴェロニカもとても美しいし、ミュルエルはヒーローもののスター女優らしい。何不自由ない暮らしができる人たちで、思い悩むことは何もないというところだろうか。

だから酒に酔って憂さ晴らしをしたりする必要もないということなのか、みんながエクストラ・ウルトラ・ライトというビールを飲んでいる。ほとんど水みたいなビールということらしいのだが、そういうもののほうが健康的で美味しいということなのだろう。

『トゥ・ランド』では、そうした人たちの哲学的な会話が展開される。「哲学的」というのは、劇中でそんな言葉が出てきたからだが、何となく小難しいことを話していたりするのだが、それが深いかというとそんな感じはなく、まったく空虚で飲んでいるビールと同じく酷く軽いようにも思える。そんなわけでそこそこ笑えたりするところはあるけれど、特に興味を惹かれるようなものはなかったかもしれない。

©Hal Hartley / Possible Films, LLC

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久しぶりのハル・ハートリー

ハル・ハートリーは90年代に一部でちょっと流行ったのだろう。インディペンデントでやっているというあたりも新鮮だったのかも。私も『トラスト・ミー』、『シンプルメン』は名画座で観た。その後はほかの作品もDVDでいくつも観たはずだが、観たことは記録に残っているけれど、記憶にはないものがほとんどかもしれない。

『トラスト・ミー』は主役のエイドリアン・シェリーがとてもかわいらしかったことは覚えている(この人はハル・ハートリーのデビュー作『アンビリーバブル・トゥルース』の主演でもあるのだが、若くして亡くなってしまったらしい)。

それから『シンプルメン』はある一場面だけは鮮明に覚えている。それが唐突に始まるダンスの場面だ。ここではソニック・ユースの曲に合わせて登場人物が踊り出すのだが、これはゴダールの『はなればなれに』のオマージュとなっている。

ちなみに踊っているメガネの男は『トゥ・ランド』でも主人公を演じているビル・セイジだ。このシーンが当時どんなふうに紹介されたのかは忘れたけれど、オマージュ元の『はなればなれに』はその当時の日本では限定的にしか公開されていなかったわけで、それを知らずに観ても面白かったということなのかもしれない。とにかく訳はわからなかったけれど妙に印象に残っているのだ。

そういうインパクトが『トゥ・ランド』があったかというと疑問を感じなくもない。ハル・ハートリーは「これが最後の映画になっても構わない」などと語っているとか。

映画監督の引退宣言はよくあることではある。といってもハル・ハートリーという人は器用な人のようで劇中音楽まで自分で作っているようだし、本作のジョーと同様に映画以外のこともしたいと考えているのかもしれない。

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