監督は『フェイス/オフ』のジョン・ウー。
主演はリメイク版『ロボコップ』のジョエル・キナマン。
原題は「Silent Night」。
物語
幸せな一日になるはずだったクリスマス・イブのその日、ギャング同士の銃撃戦に巻き込まれた男は、目の前で愛する我が子の命を奪われる。自らも重症を負った男は、なんとか一命をとりとめたものの声帯を損傷。絶望を叫ぶ声すらも失ってしまう。声なき男の悲しみはやがて憎悪へと変わり、悪党どもへの復讐を決意するのであった。ギャング壊滅の日は次の12月24日。聖なる夜に、誰も観たことのない壮絶な復讐劇が幕を開ける。
(公式サイトより抜粋)
サイレントナイトとは?
原題の「サイレントナイト」というのは、クリスマスなんかで歌われる曲として有名だから誰でも聴いたことがあるだろう。もちろん私も知っていたのだが、慣れ親しんでいたのは日本語訳の「きよしこの夜」という曲だった。だから私の中のイメージでは「サイレントナイト」=「聖なる夜」、つまりは「クリスマス・イブの夜」というイメージだったので、原題の意図するものがよくわからなかったのだ。
「サイレントナイト」というのは、本当は単純に「静かな夜」と訳すべきものなのだろう。原曲(本当はドイツ語らしい)の場合、「サイレント・ナイト、ホーリー・ナイト」と続くことになる。「静かな夜、聖なる夜」を日本語に訳す時に、メロディに合わせた意訳がされ、「きよし、この夜」となったということらしい。
本作がなぜ「静かな夜」を謳っているのかと言えば、主人公が声を失っているからだ。主人公は言葉を発することができないわけで、映画もどうしてもサイレントに近くなる。実際には、劇中ではラジオの声なんかもあるし、周囲もまったく話さないわけではないのだけれど、主人公には一切台詞がない。
すべてを言葉に頼らず行動(つまりはアクション)で示すほかないというのが本作の面白いところで、余計なものがなく久しぶりのジョン・ウーのアクション映画を満喫することができた。2017年の『マンハント』は酷い出来だったし、正直、本作にもあまり期待してもいなかった部分もあるのだけれど、昔ながらのアクション映画を感じられるところがとてもよかったのだ。

©2023 Silent Night Productions, Inc. All Rights Reserved
一体どんな世界?
冒頭、なぜか男がわけもわからず走り続けている。着ているセーターは真っ赤な鼻のトナカイの柄だ。そのほのぼのとしたイメージとは相容れない形相で走っている男の手は、血で真っ赤に染まっている。一体何があったのか? そして、周囲のどこかでは連続的に銃声が響いている。
昼間っから派手な銃撃戦が起きているこの場所は、一体どんな世界なのか? 劇中では「ロス・パロマス」という地名が出てくるけれど、実在する場所なのかはよくわからない。とにかくそんなかなり危険で荒唐無稽な世界が舞台となっているのだ(本物のギャングが観たとしたら、怒り出すかもしれないようなアホなギャングばかりが登場する)。
後で明らかにされることだが、男はギャング同士の抗争で巻き添えになってしまった少年の父親だったのだ。怒りに駆られた男はギャングたちの抗争に乗り込んでいって、あっさりと撃退されてノドをやられてしまうことになる。何とか命だけは取り留めたものの、声を出すことは叶わず、一切の言葉を奪われることになってしまう。
奥様(カタリーナ・サンディノ・モレノ)としては息子を殺されただけではなく、夫も喪うところだったわけだけれど、何とか病院から生きて家に戻ってくることができた。奥様は「それでも二人で生きていこう」というつもりだったのかもしれないけれど、男としてはそれでは気が治まらなかったらしい。男はしばらく酒浸りになるものの、それも飽きたのか、突然一念発起することになる。男が生きる目的を取り戻すためには、結局は息子の仇を討つということしかあり得なかったということらしい。
奥様は男のやろうとしていることを知りつつも、それを止められずに家を出ていくことになってしまう。そんなふうにして孤独な男は、仇討ちの決行日を息子が殺された12月24日と決め、それに向けて訓練を始めることになるのだ。

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昔ながらアクション
どうも観客の評判があまり芳しくないのは、この主人公の男が立ち上がるまでの時間が長すぎるというところがあるようだ。確かにこの時間は、男がかつての息子の姿を回想して涙にくれたり、飲んだくれてばかりといった感じで、辛い場面が続くことになる。
ただ、これもトレーニングを開始する瞬間の前フリだったんじゃないだろうか。本作は根性論の映画なのだ。素人でも「死ぬ気でやる」つもりになれば何とかなる。そんな古臭い映画だった気がする。
昔のアクション映画ではトレーニングシーンというのが必ずあったんじゃないだろうか。たとえば初期のジャッキー・チェン作品はだいたい仇討ちものだった気もするけれど、『酔拳』のように最後の決戦に向けてトレーニングするシーンがいつでも見どころだったのだ。また、アクション映画ではないかもしれないけれど、『ロッキー』シリーズだって、決戦に向けてトレーニングが始まる瞬間が感動させる場面だった。
最近のアクション映画では、「舐めてた人が実は……」というパターンが多いようだが、本作は昔ながらのパターンなのだ。これは努力と根性でどうにかなるといった古臭い考えなのかもしれないけれど、『サイレントナイト』はそれを地で行く作品なのだ。
男が何をやっていた人物なのかはわからない。それでも懸垂から始まり身体を鍛え出し、銃撃の訓練や、接近戦でのナイフの使い方など殺しの技術をyou tubeで学び始める。そんなことで素人が殺人を学べるものなのかというツッコミはもちろんあるだろうし、予定通りに行かずに痛い目に遭ったりもするけれど、最後は何とか目的をやり遂げることになる。
本作には『ジョン・ウィック』シリーズの製作陣も参加しているとのこと。ただ、本作の主人公はジョン・ウィックみたいなプロではないわけで、かなり大味なアクションになっているとも言える(ラスト近くの接近戦でのショットガンの使い方は凝っていたけれど)。それでも最後に残した奥様に残した手紙にあるように「死ぬ気でやる」ことで何とかなってしまうのだ。
思えば私が大好きな『男たちの挽歌』もほとんど自殺行為のようなことばかりやっていて、それでもやらなければならないことがあるといったところが男泣きさせるところだった気がする。そんなわけで放っておかれる奥様にとっては誠に酷い話になっているのかもしれないけれど、そういう熱い男たちのことが嫌いじゃない人は楽しめるんじゃないだろうか。
ジョン・ウー作品と言えばお馴染みの白い鳩は、本作では出てこなかったと思う。代わりに妙にカラフルな鳥の姿があったけれど……。それから二丁拳銃のシーンは、別のキャラが繰り出していた。ラスボスのキャラが弱かったりする部分はあるけれど、カーアクションなど派手な見せ場もあって個人的には十分に楽しめた。
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