『サスカッチ・サンセット』 悲観的観測

外国映画

監督・脚本は『トレジャーハンター・クミコ』デビッド&ネイサン・ゼルナー兄弟。

主演は『リアル・ペイン 心の旅』ジェシー・アイゼンバーグ

物語

北米の霧深い森に生きる4頭のサスカッチ。彼らは寝床をつくり、食料を探し、交尾をするといういつもの営みを繰り返しながら、どこかにいると信じる仲間探しの旅を続けている。そして、絶えず変化する世界に直面しながら、生き残りをかけて必死に戦うことになる。果たして彼らが辿る運命とは—

(公式サイトより抜粋)

自然の中の類人猿?

「山と山が連なっていて、どこまでも山ばかりである。」というのは、小説『楢山節考』の冒頭部分だが、本作の舞台となるのもそんな山深い場所だ。手つかずの自然が残っている場所のようにも見える。

実際の撮影場所はカリフォルニア州レッドウッド国立公園らしいけれど、人の気配をまったく感じないほどだ。そこに現れるのがサスカッチと呼ばれる“何もの”かだ。類人猿にも見える彼らは一体“何もの”なのか?

彼らは4頭(あるいは4匹だろうか)いる。どれも毛むくじゃらで見た目も似通っていて、関係性もよくわからない。冒頭から早速交尾を始める2頭は父と母なのかも。母親の母乳を飲んでいる少しだけ小さい1頭は子どもなのだろう。そして、もう1頭のオスもいる。

サスカッチはそのあたりに生えている緑の葉っぱを食べている。ほかにも木の実とかキノコなどで生き永らえているらしい。定住しているわけではなく、常に移動しているようで、夜になると簡易的な家のようなものを作り、その中で眠ることになる。移動しているのは、彼らが仲間を探しているからだろうか。木を叩いて音を出して、どこかにいると思しき仲間を探しているのだ。

©2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved

人間なんてこんなもの

『サスカッチ・サンセット』は、そんなサスカッチの生態を追っていく。それだけの映画だ。サスカッチはウホウホと声を発したり、何らかの意志はありそうだけれど、言葉は持っていないのだ。

だから本作には台詞もない。役者としてはやりがいがあるのかどうか? ジェシー・アイゼンバーグライリー・キーオが出ているらしいけれど、着ぐるみで目しか出てないから正直全然わからない。誰が演じても同じなんじゃないかなんてことを思わなくもないけれど、身体表現が磨かれるということもあるのかもしれない。

サスカッチの生態をあからさまに描く本作は、とても品がない。2頭が交尾をしているのを、ほかの2頭も珍しそうに眺めている。ペニスも丸出しだし、ウンコもオシッコも垂れ流しみたいなもので、汚いことこの上ない。しかしながら動物にとってはそれが当たり前とも言える。

本作が影響された作品として、監督のデビッド&ネイサン・ゼルナー兄弟は『2001年宇宙の旅』を挙げている。『2001年宇宙の旅』では、人類が進化する前の姿が描かれていた。冒頭に出てくるサルたちだ。そこから進化した者はヒトになり、文明を築くことになる。

本作のサスカッチも人類に近しい存在にも見える。数を数えようとしてみたりもするけれど、大きい数字には対応できなくなってしまうらしい。それでも彼らは夜空の星を眺めながら何かしらを感じているようだ。だから本作は人類以前の存在の姿を描いているようにも見え、「所詮は人間なんてこんなものだったんだよ」とでも言っているようなのだ。

先ほどは「品がない」と言ったりもしたけれど、それも人間たちから見た場合の価値観ということなのだろう。本作の視点はサスカッチのものなわけで、動物なら当たり前の姿ということなのだろう。

©2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved

スポンサーリンク

 

悲観的観測?

サスカッチというのは、北米に生息するとされる未確認動物(UMA)のことらしい。別名をビッグフットとも言う。こちらの名前のほうが有名だろう。

監督のデビッド&ネイサン・ゼルナー兄弟はサスカッチが大好きなのだという。それが高じて10年もの月日をかけて本作を製作することになったということらしい。実際にはUMAは実在しないわけで、それに会いたいがために映画まで作ってしまったということだろうか。

監督たちはそれで満足ということなのかもしれないけれど、観る側としてはそれほどの思入れもないわけで、何かしらのオチは欲しかったかもしれない。本作は山の四季を描き、そこに次第に人間の影らしきものが現れてくることになる。ラストでは実在するビッグフット博物館に到着したところで終わることになる。

仲間を求めていたサスカッチだけれど、人間のことは仲間と思えるのかどうか? 「サスカッチ・サンセット」というタイトルはそのあたりの悲観的観測が込められているということなのかもしれない。

ネイサン・ゼルナーが演じている貪欲なリーダーが仲間たちから爪はじきにされてみたり、亀に舌を噛まれてなどという、しょうもない笑いもあったりするけれど、サスカッチの死のあっけなさが印象的で物悲しさみたいなものもある。昔テレビでやっていた『野生の王国』あたりの野生動物のドキュメンタリーを見ているような感覚でもあった。それでもやはり珍作であることは間違いないと思うし、好みは分かれそう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました