『リトル・ワンダーズ』 新しいけど懐かしい

外国映画

監督・脚本はウェストン・ラズーリ。本作が長編デビュー作とのこと。

原題は「Riddle of Fire」。

物語

悪ガキ3人組“不死身のワニ団”、アリス(フィービー・フェロ)、ヘイゼル(チャーリー・ストーバー)、ジョディ(スカイラー・ピーターズ)は大の仲良し。ある日、ゲームで遊ぶ代わりとして、ママの大好きなブルーベリーパイを手に入れに行くが、必要な卵を謎の男(チャールズ・ハルフォード)に横取りされる。奪い返すために男を追いかけた3人は、魔女(リオ・ティプトン)率いる謎の集団“魔法の剣一味”に遭遇し、怪しい企みに巻き込まれてしまう。森で出会った、魔女の娘ペタル(ローレライ・モート)を仲間に、悪い大人に立ち向かう4人…果たしてこどもたちの運命は?無事にパイを手に入れ、ゲームをプレイできるのか!?

(公式サイトより抜粋)

西部劇から卵争奪戦へ?

悪ガキたちのたった1日が描かれるだけなのだが、センスがいいのかとても楽しい作品になっている。本作が長編デビュー作というウェストン・ラズーリ監督の好きなものがいっぱい詰まった作品だからかもしれない。

冒頭では、ペイントボール銃を抱えた3人のちびっ子ギャング団がどこかの店の倉庫を襲撃する。アリス(フィービー・フェロ)という女の子と、ヘイゼル(チャーリー・ストーバー)とジョディ(スカイラー・ピーターズ)の兄弟だ。

3人のやってることは一丁前で、ドアの鍵を壊して倉庫に忍び込みお宝をゲットすることになるのだが、3人が覆面姿で声も出さないのは、テレビで見た西部劇の悪者たちの真似なのだろう。それでも喜びのあまりかわいい奇声を上げてしまうあたりが何とも無邪気だ。

3人が狙っていたのは、テレビゲームだ。OTOMOという日本製らしい。3人は大はしゃぎでゲームを楽しもうとするのだが、なぜかテレビにはパスワードがかかっていて何度やってもログインできない。3人はパスワードをゲットするために、ヘイゼルとジョディの母親のところへ向かうのだが、3人のやることはどんどん明後日の方向へと転がっていく。

テレビゲームするためにはパスワードが必要だ。そのためにはヘイゼルたちの母親を懐柔しなければならない。それにはブルーベリーパイが必要だ。ところがブルーベリーパイは売っておらず、それを一から作るハメになる。その食材をゲットするためにスーパーへ買い物に行くと、まだら模様の卵を謎の男(チャールズ・ハルフォード)に奪われてしまう。3人は卵を取り戻すために男の後をつけることになり……。

子どもたちの遊びってのはそんなものかもしれない。次々とルールが変わっていったり、興味が移り変わっていくのだ。テレビゲームをするための行動が、いつの間にかに卵を巡る争奪戦になっていくのだ。とはいえ、そのこと自体がロールプレイングゲームっぽい趣きもあり、別の遊びが始まってしまったようでもあるのだ。

© RILEY CAN YOU HEAR ME? LLC

悪ガキとファンタジー

『リトル・ワンダーズ』では、子どもたちの冒険が描かれる。ただ、それだけだ。深い意味は特にない。謎の男を追って3人がたどり着くのは魔女たちのところなのだが、なぜ魔女(リオ・ティプトン)が登場するのかと言えば、ウェストン・ラズーリ監督が好きだからなのだろう。

この魔女は「オンペイ・リコス」とか呪文を唱えると人を操れるらしい。魔女には娘がいて、その娘のペタル(ローレライ・モート)は悪ガキ3人組と森の中で出会い、仲間入りすることになる。

魔女一味は森の中で悪だくみをしているらしく、暗くなった森の中はファンタジーの世界っぽくなってくる。魔法が使える世界というのもファンタジーだし、妙に作り物めいたヘラジカが一瞬顔を出してみたり、いかにゲームに出てきそうな毒キノコがあちこちに生えていたりする世界なのだ。それでも魔女一味はヒッピーみたいな風貌で、過度にファンタジーにならない塩梅も絶妙だった。

この悪ガキ3人組は“不死身のワニ団”と名乗っていて、対する魔女たちは“魔法の剣一味”という名前が付けられている。そんな名前を付けてしまうウェストン・ラズーリという監督は年齢は30代半ばくらいなようだが、未だに子ども心を忘れていない人なのだろう。ファンタジーの世界で子どもと魔女が対決するというのは、彼が子どもの頃に思い描いていた夢の実現なんだろうか。

ちなみにウェストン・ラズーリ監督は、なかなか強面の“魔法の剣一味”の中では一番下っ端のマーティーという役で劇中にも顔を出している。自分自身もそんな夢の世界の中に入り込みたかったということなのかもしれない。

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新作だけど懐かしい雰囲気

何だかとても懐かしい感じがする映画だった。悪ガキたちは生意気にダートバイクなんて大層なものに乗っていたけれど、自分が子どもの頃にチャリンコ暴走族を気取って近所を走り回っていた時代を思い出させてくれる。もちろんうちの近所には魔女はいなかったけれど、敵対するグループなんかはあったはずだ。ありもしない敵を見出すというのは、子どもっぽい振る舞いなのだろう。

本作は新しい映画なのにもかかわらず、古い映画を観ているような気分になるのは、本作が16ミリフィルムで撮られているからなのだろう。粒子の荒い感じは昔のテレビで観た古い映画を思わせるのだ。だから実はスマホがある現代の話なのにもかかわらず、懐かしい気持ちにさせてくれるのだ。

とにかく子どもたちがみんなとてもいい表情をしている。それを観ているだけで楽しい。そんな映画だった。普段なら何かしら考察すべきものを探してしまったりもするけれど、子どもたちがかわいいとか、ソーセージがうまそうとか、感覚的に楽しむ作品なのだろう。

ラスト近くでは悪ガキたちは卵のためにダンスを踊ることになる。ジョディが何の勝算もなく踊り出し、それからひとりずつ加わってみんな好き勝手に踊ることになるのだが、ここがとても感動的で当然卵をゲットするものと思えたくらいだった。「Baby come Back」という曲がとてもマッチしていたということもあるのだが、アリスがヘイゼルに一瞬キスをするのがとても微笑ましかったのだ。鑑賞後にはもう一度観てみたいと思わせるような映画になっているんじゃないだろうか。

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