監督は『プラットフォーム』のガルダー・ガステル=ウルティア。
主演は『ジェミニマン』のメアリー・エリザベス・ウィンステッド。
原題は「Rich Flu」。
物語
ストリーミング・プラットフォームの重役プロデューサーであるローラは家庭を顧みず、自身のキャリアにすべてを捧げてきた。華やかな映画業界での成功を目前にしたその矢先、世界では、裕福な人々を次々と死に至らしめる奇病≪リッチフルエンザ≫が突如発生し、資本主義に支配された現代社会は、瞬く間にカオスへと陥る。富が死を招く、その極限状況のなかで、ローラが下す究極の決断とは……。
(公式サイトより抜粋)
リッチな人の共通点は?
格差社会を強烈に皮肉った『プラットフォーム』のガルダー・ガステル=ウルティア監督の最新作であり、本作も同じようなテーマを扱っている。『億万長者の不都合な終末』ではある種のウイルスが発生することになるわけだが、この設定がかなりバカげていて面白い。というのも、このウイルスはなぜかリッチな人たちだけが感染するという設定なのだ。
劇中では世界で名だたる富豪たちから、そのウイルスの犠牲になっていく。有名投資家のウォーレン・バフェットや、amazonの経営者であるジェフ・ベゾスに加え、ローマ法王までも亡くなってしまう(バチカンも金持ちだと言いたいらしい)。
感染者はなぜか歯が白く光出すことになる。そうなってくると末期症状で、その人は間もなく死に至る。「芸能人は歯が命」というCMがあったけれど、金持ちは無闇矢鱈に歯のケアをしているということを皮肉っているというわけだ。本作はブラックコメディなのだ。

© 2023 RICH FLU A.I.E, NOSTROMO PICTURES S.L., BASQUE FILMS SERVICES S.L., MAMMA TEAM SONDER ENTERTAINMENT S.L.
“リッチフルエンザ”とは?
ローラ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)はストリーミング・プラットフォームの重役として、予算をどこに与えるかの決定権を握っているらしい。映画を作りたい製作者は彼女に認めてもらうために必死だ。それに対して彼女はシビアに内容を査定しつつも、作り笑いでその場を取り繕っているというところだろうか。
こうした前半のエピソードで見えてくるのはローラが家庭を省みずに働き、そのためには他人を蹴落とすことなど当たり前として生きてきたということだろう。ローラは家庭を犠牲にしている。そのせいで旦那とはすでに離婚寸前で、娘をどっちが引き取るかという段階だ。旦那としては娘の誕生日を放っておいて、仕事に精を出しているローラが許せないのだ。
本作ではローラがとてもいけ好かない人物として描かれている。これはローラのようなリッチな人が人に嫌われるのは当たり前と思わせるためかもしれない。
本作では“リッチフルエンザ”という架空の感染症が広がることになるわけだけれど、それによってリッチな人たちはあっという間にそれまでの地位を失うことになる。
このリッチフルエンザの設定は、リッチな人だけが感染するというものだ。だとすれば、貧乏人は何も恐れることはないということになる。しかし、劇中世界では暴動のようなことが生じてしまう。感染した人のことを隔離するという名目で、リッチな人たちは自由を奪われていくのだ。
実際には、劇中のこのあたりの描写があまりうまくないために、何が起きているのかわからない部分が多い。ただ、ローラがイヤな女だったように、世の中のリッチの人はみんな似たようなものだと思わせているところはある。そして、今まで幅を利かせていたリッチな人たちは、そうではない人たちの恨みを買って当然ということが仄めかされているのだろう。
ローラは自分のことを中産階級だと感じていたらしいけれど、秘書やそのほかの人からすればリッチな部類に入ることは間違いない。しかもローラはある富豪から株式を分け与えられることになり、それが彼女をとんでもない富豪にしてしまうことになる。

© 2023 RICH FLU A.I.E, NOSTROMO PICTURES S.L., BASQUE FILMS SERVICES S.L., MAMMA TEAM SONDER ENTERTAINMENT S.L.
資本主義から共産主義へ
そんなわけで富豪の仲間入りを果たすことになってしまったローラ。しかし、タイミングが悪い。今、金を持っていることは、自分の首を絞めることになってしまう。彼女は秘書に金を譲ろうとするものの、秘書もそんな危険物は受け取れないとばかりに彼女の元から去っていくことになる。そうしてローラはヨーロッパから逃げ出し、アフリカへと流れていくことになるのだが……。
本作では、その後のヨーロッパがどうなったのかはよくわからない。リッチな人たちが逃げ出したとしても、多くの人はそうではなかったわけで、資本主義体制がどうこうなるほどのものではないのかもしれない。本作ではその後もローラの視点で描かれていき、彼女は原始共産制が未だに残っているような村に行きつくことになる。
そして、ラストではローラがそんな場所で貨幣というものを生み出してしまう役割を演じることになる。この村では村人同士で持ち物を共有し、それはある期間でシャッフルされることになる。ただ、ローラはかつて自分が働いて買った初めての腕時計に執着していて、その時計を取り戻したくなり、自分で貝殻を磨いて貨幣のようなものを作ることになるのだ。
※ 以下、『プラットフォーム』に関するネタバレあり!!

© 2023 RICH FLU A.I.E, NOSTROMO PICTURES S.L., BASQUE FILMS SERVICES S.L., MAMMA TEAM SONDER ENTERTAINMENT S.L.
ループして元に戻る
こうした展開は『プラットフォーム』ともよく似ている。『プラットフォーム』をかなりざっくりと振り返ってみれば、醜い争いが続いていた世界に革命が起きる話とまとめることができるかもしれない。共産主義革命だ。ラストはそんな新しい世界に希望を見出したように終わる。
ところが実はこの作品には続編がある。それが『プラットフォーム2』だ。この続編は「前作の繰り返し」としか評価されていないところがある(あるいはNetflixでしか配信してないために、観てない人も多いのかも)。実際には、このシリーズはこの続編でようやく完結することになるのだ。
『プラットフォーム2』は、実は『プラットフォーム』の前日譚だ。そして、『プラットフォーム2』で何が起きるのかと言えば、共産主義にうんざりした人が好き勝手な世界を作ることになるのだ。
この好き勝手な世界は、つまりは資本主義ということだろう。そして、資本主義というのは醜い争いに過ぎない。そして、再び物語は『プラットフォーム』の最初の戻ることになるというわけだ。
『億万長者の不都合な終末』で描かれていたこともこれと同じだ。ローラが代表するリッチになるような人は、人を蹴落としてのし上がったいけ好かない奴らということになる。それがリッチフルエンザという病によってひっくり返る。図らずも革命が起きてしまうのだ。
その後、ローラはアフリカに逃れ、そこで原始共産制の村にたどり着く。資本主義がダメだったから、今度は共産主義ということなのかと思うと、最後にツイストが待っている。
結局、人間の欲望は抑えきれず、私的所有という欲望が湧き上がってしまうのだ。そうして再び貨幣経済が発生することになる。『プラットフォーム』シリーズと同様に、本作もループするような形になっているのだ。
そんなわけで『プラットフォーム』シリーズと本作は、似たようなテーマを扱っている。しかしながらどちらが良かったかと言えば、圧倒的に『プラットフォーム』シリーズだと思う。本作はあちこちで回りくどいところがあるのだ。
ローラを富豪にすることになるリッチマンを演じていたのはティモシー・スポールだったけれど、その息子役を演じていたのは彼の実の息子であるレイフ・スポールだったらしい。この父と子の話も今ひとつピンと来ない。ローラは息子のほうに翻弄されていたと思っていたら、実はもっとあくどい父親のほうに騙されたということなのだけれど、何を描こうとしているのか酷くわかりづらいところがあるのだ。
『プラットフォーム』は「垂直自主管理センター」という特殊な状況下での物語だった。本作はそこでやったことをもっと現実的な状況に敷衍して描こうとしたのかもしれないのだが、リッチフルエンザというアイディアは面白かったけれど、それだけに留まってしまった気もする。




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