原作は法条遥の同名小説。
監督は『ちょっと思い出しただけ』の松居大悟。
脚本は『リバー、流れないでよ』などで、“時”を扱った作品には定評のある上田誠。公式サイトの記載によれば、上田誠は松居大悟監督の師匠に当たる人だとか。
主演は『騙し絵の牙』の池田エライザ。

物語
高校3年の夏、転校生の保彦がやってきた。
彼はある小説を読み、憧れて、300年後からタイムリープしてきた未来人だった。
保彦と秘密を共有する美雪。やがて二人は恋に落ちた。
そして、7月21日、運命が大きく動く。保彦からもらった薬で、美雪は10年後にタイムリープする。未来の美雪は1冊の本を見せ、「あなたが書く小説。……絶対書ける。」と告げる。それは保彦が未来で出会う小説―タイムリープから戻った美雪は、未来へ帰っていく彼を見送った。「この夏の彼と私の物語を書き、必ず時間のループを完成させる」という約束を交わし。
10年後、小説家になった美雪は、ようやく出版にこぎつけた保彦との“自分だけの物語”を手に帰省する。―
しかし運命の日、いくら待っても10年前の美雪は来なかった。なぜ来ない!?
(公式サイトより抜粋)
タイムリープ+尾道=
タイムリープもので、しかも舞台は尾道ということで、大林宣彦監督の『時をかける少女』を思いっ切りリスペクトしている。もともとの原作の舞台は違う場所らしいけれど、映画化するに当たって変更したということらしい。
タイトルが出る前までの部分が、特に『時をかける少女』の雰囲気を見せてくれる。ラベンダーの香りがして、学校の先生役には尾美としのりが顔を出し、尾道を舞台にした青春物語が展開していくのだ。
300年前の未来からやってきた保彦(阿達慶)という少年。彼が未来人だということをたまたま知ってしまったのが、主人公の美雪(池田エライザ)だ。美雪と保彦は恋に落ち、その夏を一緒に過ごすことになる。
ある日、学校の旧校舎が崩壊するという事件が起きる。それに巻き込まれたと思しき保彦を助けるため、美雪は彼からもらった薬で10年後へと飛ぶ。そこで知らされたのが、美雪がある小説を書き、それが300年後の保彦に届くことになるということだった。そして、それを読んだ保彦がタイムリープして現在へとやってきたというのだ。
そんなわけで美雪は、未来に帰ってしまった保彦と約束する。その小説を完成させ、未来の保彦に届けるということを。
それから10年後、ようやく小説は完成し、10年前の高校時代の美雪がやってくるはずだ。そのために準備を整えて、彼女を待ち構えるのだが、なぜか10年前の美雪はやってこない。一体、どうしたことなのか? これではループが完成しないことになってしまうことに……。

©2025「リライト」製作委員会
トラブル続きの美雪
300年後に美雪が書いた小説を手に入れ、それがきっかけで現在へとタイムリープしてきた保彦。その小説は彼と美雪が過ごした夏を描いた作品だった。ところが10年後に高校生の美雪はタイムリープしてこない。
最初のきっかけがなければ美雪は小説を書かないし、小説が書かれなければそれが保彦に届くこともない。そうなると保彦が現在にタイムリープしてくることもなくなってしまうことになる。これは一体どういうことなのか?
その頃、別のトラブルも発覚する。小説家としていくつかの本をすでに出版している美雪は、最新作として『少女は時を翔けた』という保彦との夏の想い出を綴った本を出版予定だ。美雪が高校生の美雪に見せるのも、その出版予定の本なのだ。
ところが出版社からの連絡で、盗作騒ぎが持ち上がることになる。似たような本が出版予定だということで問題になっているというのだ。出版社の担当者(長田庄平)が確認したところ、確かによく似ていて舞台となる街まで同じなのだという。どうしてそんなことが起きてしまったのか?
※ 以下、ネタバレあり! ラストにも触れているので要注意!!

©2025「リライト」製作委員会
主人公は誰?
多くの映画はひとりの主人公を据え、その視点が観客の視点を担う形になる。しかし群像劇というものもあって、その場合、多くの視点によってひとつの出来事が多面的に捉えられたりもする。しかしながら、これは映画だから出来ることであって、われわれはほかの人物の視点になれるわけがないわけで、どうしてもひとつの視点から物事を見るほかない。
『リライト』は、ある夏の出来事を描いている。魅力的な転校生が現われ、その秘密を自分だけが知っている。そんなふうに感じたとしたら、その人はその夏の主人公は自分だと錯覚するだろう。本作の主人公である美雪の場合もそうだ。彼女は保彦と出会い、あっという間に恋に落ちる。そして、たかだか20日間だけれど、彼と一緒に過ごし、夏祭りで花火を眺め、いつまでもこうしていたいと感じることになる。
美雪を演じているのは池田エライザだ。誰が見ても魅力的な女の子だ。だからこそ、観客も美雪が主人公だと思っているわけだ。ところが本作では途中からそれがあやしくなってくる。本作では劇中でひとつの区切りのように暗転するところが何カ所かある。その区切りで主人公が変わっていくとも言えるのだ。
美雪は魅力的だけれど、クラスでは特に目立つ存在というわけではない。女の子の中でマドンナ的な存在は敦子(山谷花純)だし、目立つのはお調子者キャラの亜由美(大関れいか)だったりする。実はそれぞれがその夏の主人公になっているのだ。
これはどういうことかと言えば、同じことがほかの人にも起きていたということなのだ。美雪は保彦の秘密を知っているのは自分だけだと思っていたけれど、実はみんなが保彦との特別な想い出を持っていたのだ。だから美雪が保彦と過ごした夏は、彼女だけのものではなかったのだ。みんなが同じような経験をしているわけで、ほかの誰かがその小説を書こうとすればそれは不可能ではないということになる。盗作騒動はそうして起きたということになる。
しかしながら、本作の真の主人公はクラスのまとめ役である茂(倉悠貴)なのかもしれない。茂はタイムリープから抜け出せない保彦が現在に増殖していることを知り、それがほかの人にバレないように、うまくやりくりしていたのだ。次々に増殖していく保彦を捌く茂の活躍もあり、最終的には小説は書かれ、ループは完成することになる。

©2025「リライト」製作委員会
なぜリライトが必要なの?
増殖する保彦のシークエンスはドタバタ劇として笑えるのだが、ひとつ腑に落ちないこともあった。それは最終的に保彦に届くはずの本の作者は、なぜ美雪が書いた本をリライトする必要があったのかというところだ。もしかすると何かを見落としていたのかもしれないけれど、そこがよくわからなかった。
真の作者も美雪と同様な経験をしていたわけで、それをもとに本は書けたはずだ。それでも真の作者は薬に細工をし、美雪が書いた試作版の『少女は時を翔けた』を手に入れ、それをリライトすることを選んだということになる。その点が不思議だったのだ(もう一度観てみたい気持ちにもなった)。
しかもその事実を美雪は知ってしまったわけで、彼女は10年前の自分に本を書かせないことだってできたはずだ。それでも美雪はそうしなかったからこそ、ループが完成することになる(そうしなければ保彦はいつまでもタイムリープから抜け出せないのだろう)。
美雪が真の作者と図書館でやりとりする場面で手にしていたのは、あの有名なSF小説『夏への扉』だった気がする。映画版の『夏への扉』の時にも記したけれど、『夏への扉』のタイムトラベルではすべては最初から決まっていたようなイメージになっている。本作で何度も「ループが完成する」という言い方がされているのも、すべては最初から決まっていたことを示しているようでもある(かなりまどろっこしいやり方だったけれど)。だからちょっとだけほろ苦い気もした。
池田エライザも魅力的だったけれど、最後に存在感を増す橋本愛もよかった。橋本愛主演作の中で個人的に一番のお気に入りは松居大悟監督の『ワンダフルワールドエンド』だと思っているので、さすがに橋本愛の魅力をうまく引き出していたということだろう。
それから美雪の夫役で顔を出している篠原篤のいい人ぶりを微笑ましく見た。篠原篤は『恋人たち』以来あまり大きな役には恵まれていない気もするけれど、美雪としても待っていてくれる優しい旦那さんがいるからこそ、変な間違いをせずにループを完成させたんじゃないだろうか。
コメント