『RED ROOMS レッドルームズ』 妖しい魅力

外国映画

監督・脚本はパスカル・プラントというカナダ人。本作は長編第3作とのこと。

主演はジュリエット・ガリエピ

カナダのファンタジア国際映画祭で最優秀脚本賞・最優秀作品賞・最優秀音楽賞を受賞した作品。

物語

人気ファッションモデルのケリー=アンヌのささやかな日課は少女たちを拉致、監禁、拷問、そして死に至るまでを撮影し、ディープウェブ(通称:RED ROOMS)上で配信していたとされる容疑でメディアを賑わせているルドヴィク・シュヴァリエの裁判の傍聴だった。彼女はなぜ彼に執着するのか、審判の先に見たものは――。

(公式サイトより抜粋)

犯罪者グルーピーの日常

シリアルキラーの語源とされた稀代の殺人鬼テッド・バンディの裁判には、傍聴席に彼のファンの女性たちが押し寄せたらしい。映画『テッド・バンディ』にもそうしたエピソードが描かれていた。

そんな犯罪者グルーピーというのは常識的な人にとっては理解不能に思えるけれど、有名になった死刑囚などは獄中結婚したりもするわけで、そういう人たちは一定程度いるらしい。

『RED ROOMS レッドルームズ』の主人公ケリー=アンヌ(ジュリエット・ガリエピ)も、そんな種類の女性のひとりだ。冒頭、ケリー=アンヌは路上で寝ているのだが、彼女はホームレスというわけではない。ある裁判の傍聴席を確保するために、なぜか夜通しその近くで待っていたらしい。

その裁判というのがルドヴィク・シュヴァリエ(マックスウェル・マッケイブ=ロコス)の裁判だ。シュヴァリエは10代の女の子3人を残酷に殺した上に、その映像をダークウェブ上で公開して利益を得ていたとされる。ケリー=アンヌはシュヴァリエに好奇心を抱いたのだという。

ケリー=アンヌは裁判が開かれると毎日のように顔を出すことになるのだが、彼女はファッションモデルとして仕事をしていて裕福だし、さらに副業でもネットポーカーをして稼いでいる。彼女は頭脳明晰で才色兼備、住んでいる場所は超高層マンションで、何不自由ない暮らしをしている。そんな女性がなぜシュヴァリエに興味を抱くのか

©Nemesis Films

際立つ異常性

本作は仰々しい音楽から始まるけれど、裁判が始まると一転して静かにその過程を長回しで延々と捉えることになる。そんな裁判に群がる犯罪者グルーピーは一体何を求めているのか?

本作はケリー=アンヌ以外にもう一人のシュヴァリエファンが登場する。クレメンタイン(ローリー・ババン)という女性だ。彼女はシュヴァリエに同情的で、彼は冤罪の被害者だとまで考えている。

というのも証拠として提出されている2つのスナッフフィルムに登場する男は、覆面を被っていて青い目ということがわかるだけで、シュヴァリエだと特定することは難しいからだ(とはいえ、被害者の遺体はかつてシュヴァリエが住んでいた場所から見つかったのだが)。

それに対してケリー=アンヌがシュヴァリエをどんなふうに思っているのかは見えてこない。彼女は積極的に裁判の傍聴に参加するし、様々な情報を集めているけれど、傍聴席からガラスの檻に入れられたシュヴァリエを見つめる目はクレメンタインのそれとは異なる気もする。ケリー=アンヌはシュヴァリエに何を求めているのだろうか?

もしかするとクレメンタインは犯罪者グルーピーの典型的な一例なのかもしれない。それに対してケリー=アンヌはつかみどころがない。クレメンタインの行動も常識的な人には理解できないところがあるけれど、ケリー=アンヌはそれ以上に謎めいているのだ。

クレメンタインは裁判で公開された2本のスナッフフィルムを観たがる(あまりに残酷だからという理由で関係者以外には非公開になったのだ)。ところがケリー=アンヌはその動画をすでに持っているのだという。彼女はその動画を観た上で、それでもシュヴァリエに執着しているのだ。

クレメンタインはその動画を観ると、シュヴァリエに対する幻想が崩れたということなのか、裁判には顔を出さなくなる(ちなみに本作にスナッフフィルムの直接的な描写はなく、音だけでおぞましいものを見たような気持ちにさせる)。クレメンタインの存在によって、より一層ケリー=アンヌの異常性が際立ってくるのだ。

※ 以下、ネタバレもアリ!

©Nemesis Films

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妖しい魅力

本作は犯罪者グルーピーの異常性を描いていて、そのひとつのクライマックスがケリー=アンヌが傍聴席で突然被害者のコスプレをする場面だろう。被害者遺族も見守る中でのその行動は不謹慎極まりないわけで、ケリー=アンヌは傍聴席からつまみ出されることになる。

しかしながら、長い裁判の中でも一切その過程に関心を示さなかったシュヴァリエも、この時だけは傍聴席の騒ぎに気づき、初めてケリー=アンヌとシュヴァリエの目が合うことになる。ケリー=アンヌは彼から存在を認識されることになり、感極まっているようでもあったのだが、彼女にとってはシュヴァリエを振り向かせることが目的だったのだろうか?

それはそれで怖い話ではある。ただ、ラストでケリー=アンヌがする予想外の行動からすると、それだけではない気もしてくる。ラストではシュヴァリエが逮捕されたことが示されるわけだが、その証拠を突きつけたのはケリー=アンヌだったのだ。

©Nemesis Films

この事件の被害者は3人いた。しかし動画が見つかっているのは2本だけだった。最後の1本の動画を手に入れたのがケリー=アンヌだ。そのためにオークションで大金を払うなど様々な苦労をしている。売り手側がその動画だけを非公開にしていたのは、裁判でシュヴァリエが話題になり、その価値が上がるのを見越していたのかもしれない。

しかしながら、この動画は違法なわけで、簡単に売るわけにはいかないだろう。売り手側が誰なのかは謎だけれど(シュヴァリエにつながる誰か?)、彼らはオークション参加者の素性を確認している。たとえば警察にその動画が渡ったとしたら、自分たちの破滅になるわけで、素性がわからない人物には売ることはできないだろう。

そのオークションの日には、ケリー=アンヌの家の前にはあやしげな車が停まっていた。そして、オークションの後にはケリー=アンヌは“何か”を発見してミキサーで破壊することになる。これはケリー=アンヌの素性を探るために、売り手側が部屋の中を監視するような“何か”仕掛けたということだったのかもしれない。

とにかくケリー=アンヌは真にその動画を欲している異常者と認められたということになる。彼女はシュヴァリエに入れ込み過ぎて、モデルの仕事もクビになったほどの狂人として世間からも認知されていたのだ。だからこそ彼女はオークションに参加できたというわけだ。ところがケリー=アンヌは、その動画を被害者の遺族にプレゼントすることになる。

もしかするとケリー=アンヌはシュヴァリエを逮捕させる証拠を手に入れるために、意図的に犯罪者グルーピーの狂気を演じていたのだろうか? 尤も、単にそれだけだったなら、彼女が被害者のベッドの上で記念写真を撮ったりはしないわけで、ケリー=アンヌという人が何者だったのかは謎のまま終わることになる。

結局、パスカル・プラント監督自身も語っているように、本作には様々な解釈があり得るということなのだろう。

ケリー=アンヌがしたかったことは何なのか? 犯罪者と心を通わせることなのか、あるいは被害者と同一化したかったのか、はたまたシュヴァリエというターゲットを追い詰める狩りを楽しみたかったということなのか。どのような解釈も可能なように本作は撮られているのだろう。

ケリー=アンヌと同様に本作もつかみどころがないけれど、彼女が謎めいた魅力を放っていたように本作にも妖しい魅力がある。

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