『オブセッション 災愛』 愛されすぎて

外国映画

監督はカリー・バーカーという新人。YouTubeで短編を配信していた人物で、本作が劇場映画監督デビュー作。

主演は『クルーガー 絶滅危惧種』マイケル・ジョンストン

物語

想い続けた彼女の心を掴むため、青年は禁じられた願いに手を伸ばす。
「ワン・ウィッシュ・ウィロー」 ――その願いの代償、膨張する“愛”に襲われ、想像を絶する惨劇に呑み込まれていく。

(公式サイトより抜粋)

ホラー映画と新人監督

ホラー映画というジャンルから若い新人監督が次々と誕生しているようだ。最近、ちらほらと『バックルームズ』というホラー映画の名前を聞くようになったけれど、この作品の監督はかなり若い人らしい。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』や現在公開中の『ブリング・ハー・バック』などで話題となった双子監督も、まだ若くしてホラー映画監督としてデビューしたようで、そういう人たちが続いているようだ。

『オブセッション 災愛』カリー・バーカー監督も同じように26歳という若さでデビューした人物だ。この人はyou tubeで短編作品を発表していた若者だったらしいのだが、そこから一気に劇場映画監督デビューを果たすことになったらしい。ホラー映画というジャンル以外ではあまりあり得ないようなことだろう。

ホラー映画というのはある程度型が決まっている。型があるから、それに当てはめればそれなりの格好はつくし、人気があるジャンルということである程度の集客を見込めるから、人気俳優などに頼らなくてもいい。そういう状況がホラー映画を作りやすくしているということだろう。

さらにアイデア次第で大ヒット作に化ける可能性がある。『災愛』も低予算ながら興行収入ランキングの上位に食い込み、製作費の700倍以上もの収益を稼ぎ出したのだとか。映画がいつもこんなに収益率がいいものならば、どんどん金を出してくれる人が増えそうなものなのだけれど……。とにかく異例の大ヒットになっているようだ。

私自身は普段はあまりホラー映画を好んで観るほうではないけれど、『災愛』はとても面白かった。単純にゾクゾクさせてくれるところがあったと思う。

ジャンプスケアばかりの作品はホラー映画でも評価が低くなることが多いようだ。こけおどしばかりを狙っているとされてしまうということだろうか。本作は音の使い方なども極端で、そういう批判をする人もいるのかもしれない。とはいえ、ホラー映画を観に行く人が何を求めているのかと言えば、怖がらせてほしいという部分があるのだろうし、これはこれでアリなんじゃないだろうか。

© 2026 Focus Features LLC.

彼女はニッキーにあらず

願いを叶えてくれるという「ワン・ウィッシュ・ウィロー」と呼ばれるアイテムがあり、それによって主人公ベア(マイケル・ジョンストン)は恐怖を味わうことになる。

ベアはニッキー(インディ・ナヴァレッティ)という女の子に告白したくてもできずにいて、どさくさに「ワン・ウィッシュ・ウィロー」を使ってしまう。もちろんそれは半信半疑だったわけだけれど、効果は覿面てきめんだったのだ。

ベアが「彼女が僕を誰よりも愛してくれますように」と願うと、ニッキーは途端に変貌することになってしまう。ベアにとってニッキーは仲のよい友達で、それ以上ではない。ベアは告白したいけど、その勇気はない。冒頭では告白の練習をしてみたりするけど、肝心なところで何もできないのがベアなのだ。ところがベアが告白することもなく、「ワン・ウィッシュ・ウィロー」は一気にニッキーを振り向かせることになる。

そうなると急に近づいてきたニッキーが怖くなったりもする。願望は抱いていても、それが実現するとビビってしまう。そんなダメ男がベアなのだ。

そこから先はニッキーが次第に変貌していく。その途上には二人がラブラブになる時期もある。そこで済めば良かったけれど、ニッキーの変化はさらにエスカレートしていくことになる。

ニッキーは一体どうしてしまったのか? ベアは自分の願いがニッキーを変えてしまったことを知っている。確信はないけれど、何となく気づいている。それでもその責任を引き受けるわけでもなく、都合のよくいいところだけを享受し、イヤになると勘弁してくれと言い出すことになるのだ。愛してほしいけれど、愛されすぎるのは困るというわけで、都合がいい男なのだ。

二人が対話をする場面では、ニッキーは逆光の状態でその表情がまったく見えないところがある。ニッキーなのだけれど、顔はほとんど見えず、目の光が朧げに見えるだけなのだ。ニッキーだけれどニッキーにあらず。そんな状態のニッキーはメンタルに異常をきたしたヤバい女にも見えてきて、ベアはそんなニッキーを恐れるようになっていくのだが……。

© 2026 Focus Features LLC.

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別の視点から見ると

本作の視点はベアにあるわけで、最初の怖さはニッキーの変貌にある。しかし、それだけで終わらないのが本作だ。

ニッキーがベアに対してどんな想いを抱いていたのかはわからない。でもニッキーは何度もベアに告白する機会を与えているようにも見える。ニッキーはベアの気持ちを知っていたのかもしれない。

かといってニッキーはベアのことを好きではなかったのだろう。もしかするとニッキーは友達のサラ(メーガン・ローレス)がベアのことを好きだと知っていて、彼女に気を使っていたのかもしれない。だとするとニッキーはベアに告白された場合、サラのことを理由にベアをフッた可能性もある。ニッキーは実はベアの友人であるイアン(クーパー・トムリンソン)と肉体関係があったりもしたらしいのだ。

とにかくニッキーはベアとつき合うことを望んではいなかったということは確かなのだろう。ところがベアの願いによって、ニッキーは望んでもいない人とつき合うことになる。本作をニッキーから見た場合、これはとんでもない恐怖ということになる。

ベアは狂ってしまったかのようなニッキーを恐れるけれど、ニッキーの側からすれば別の恐怖があるというわけだ。

© 2026 Focus Features LLC.

ニッキーはたまに囚われの状態から抜け出すことがある。一体何が彼女を操っているのかはわからないけれど、ニッキーの魂は自分の身体が好き勝手なことをしつつあるのを何もできずに体験するほかなくなってしまっているわけだ。知っている人が別人のようになってしまうのも恐怖だけれど、自分が自分の身体の中に囚われた状態になってしまうのも恐ろしい。

一時、正気を取り戻したニッキーが助けを求めるのに対して、ベアは酷い返事をする。「僕とつき合うのがそんなにイヤか?」と返すのだ。こんな調子のベアだから、因果応報めいた結末になっているのは当然かもしれない。

とはいえ、その前に二人が「ワン・ウィッシュ・ウィロー」の願いによって相思相愛になってしまうという瞬間もあり、これもまた怖い瞬間だった気もする。

何より『災愛』が面白かったのは、ニッキーを演じたインディ・ナヴァレッティの怪演があればこそだろう。突然の怒号で観客をビビらせ、変顔で微妙な空気を醸し出して笑わせ、わけのわからない動きでゾクゾクさせてくれたのだ。設定が面白くてもそれをうまく現実化してくれる役者がいなければ映画はうまくいかないわけで、本作はそれが見事にハマっていたんじゃないだろうか。

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