監督・脚本はダミアン・マッカーシー。アイルランドの人で本作は長編としては第2作とのこと。
本作はサウス・バイ・サウスウエスト映画祭のミッドナイターズ部門で観客賞を受賞した。
原題は「Oddity」で、「変わり者」という意味。
物語
ある夜、郊外の屋敷で女性・ダニーが惨殺されるという悲劇が起きる。容疑者は、現場に現れた精神科病院の患者とされていたが、事件は多くの謎を残したまま幕を閉じた。それから1年後、盲目で霊能力を持つダニーの妹・ダーシーが、不気味な木製マネキンと共に、ダニーが殺された屋敷を訪れる。そこには、ダニーの元夫・テッドと、その恋人・ヤナが暮らしていた。姉の死の真相を探ろうとするダーシーを待ち受けていたのは、思いもよらぬ真実と恐怖だった──。
(公式サイトより抜粋)
視える人と視えない人
怪しげな雰囲気があって、怖がらせる部分はきちんと怖がらせてくれる。ジャンプスケアの使い方も悪くないし、よくできたホラー映画だったんじゃないだろうか(普段はあまり積極的にホラーは観ないけれど)。
木製のマネキンがよくできている。あんな不気味なものは、なるべくなら傍に置きたくないと誰もが思うだろう。そんなことを思わせる怖い出来映えになっているのだ。
もちろん現実世界では、木の人形が動き出すことはない。それは理解している。けれども、なるべくなら避けたくなるだろう。ただの木ではあるけれど、何だかイヤな気持ちにさせられてしまうのだ。
オカルト的なものを信じる人もいるかもしれないけれど、科学全盛の現代では少数派だろう。本作の原題が「変わり者」となっているのは、本作がそんな「変わり者」を描いているからということになる。普通の人にはオカルト的超常現象は「視えない」はずだ。しかし、本作の主人公であるダーシー(キャロリン・ブラッケン)にはなぜか「視え」てしまうのだ。

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殺されたダニー
『視える』の主人公はダーシーだと記したけれど、実は最初は主人公が誰なのかよくわからぬまま物語は展開していく。最初に登場するのはダニー(キャロリン・ブラッケンの二役)だ。ダニーはダーシーの妹ということになる。ダニーは旦那と買った新居に越したばかりなのだが、夜中に突然の訪問者がやってくる。
男の片目は義眼で、彼はダニーを助けに来たのだという。男が言うには、ちょっと前に家の中に誰かが侵入したのを目撃したのだという。室内にいるかもしれない男を怖がるべきか、外の義眼の男の言葉を信じるべきか。どちらも信じようがないわけで、怖ろしさが増大していく。
義眼の男は「玄関近くに居て、何か起きたら外に逃げろ」と警告する。それほどまで言うならもしかすると義眼の男は正しいのかもしれない。しかし、それはおびき出すための罠なのかも。そんなふうに心理的に怖がらせてくるわけだが、そのエピソードはそこで中断してしまう。
そして、1年後、ダニーは冒頭の事件で亡くなったことが明らかになる。それからしばらくはダニーの旦那だったテッド(グウィリム・リー)の視点になるのだ。
テッドはダニーが亡くなった後、彼を支えてくれたというヤナ(キャロライン・メントン)という女性と一緒に暮らしている。その場所はダニーが殺された新居なのだ。
そして、その家に、ある日突然、ダーシーがやってくることになる。なぜかプレゼントと称して巨大な木の人形まで持ってきている。テッドは仕事もあるし、ダニーの姉を邪険に扱うこともできず、彼女をその家に泊まらせることになるのだ。

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傍迷惑な主人公?
テッドとヤナからすれば、傍迷惑な突然の闖入者こそがダーシーなのだ。ダーシーはそんな役回りとして登場する。
ダーシーは「視える」人だ。しかし、実際の目は見えない。盲目だ。つまりは現実世界を見ることはできないのだが、念視によってその物の持ち主の見ていたものが視えてしまうらしい。そして、ダーシーは妹ダニーを殺したとされる男の義眼を手に入れ、事件のあらましを知ったのだ。
ダーシーは妹ダニーが殺されたその家で、妹のために何かをしようとしている。そのことはダーシーがある人物に打ち明ける言葉によって明らかになる。ダーシーは念視によって犯人のことを知り、警察に知らせたりはせずに、自分で仇を討とうとすることになるのだ。
とはいえ、ダーシーは目が見えないわけで、一体何ができるのかということにもなるだろう。目が見えない人にできることは何があるだろうか? たとえば『見えない目撃者』みたいに、盲導犬を相棒にして闘うという手はあるかもしれないけれど……。
※ 以下、ネタバレもあり!
ダーシーの復讐
ダニーを殺した犯人は、旦那のテッドだ。ダーシーには念視でそれはわかっているけれど、共犯者がいることも明らかで、ダーシーとしてはその両方がターゲットということになる。そして、その方法が木の人形を使った呪術的なものなのだ。
面白いのはダーシーの方法は穴だらけとも思えるけれど、それが成功してしまうところだろう。テッドはダーシーを「変わり者」として見下している。この世にないものが「視える」などと言う輩は頭がおかしい。恐らくそんなふうにテッドは思っている。テッドは精神科医でそんな人に囲まれているのだ。
テッドは医者として科学と論理を信じている。だからダーシーのやっている霊媒師みたいな仕事は詐欺みたいに思えているのだろう。そんなことがあり得るはずもないと考えているからこそ、テッドはダニーを殺したとされた男の義眼をわざわざダーシーに渡したりする。それによってダーシーは犯人を知ることになるわけで、テッドがオカルト的なものを信じていないからこそ墓穴を掘ったのだ。

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信じてはいないけれど……
ラストのアレは見事に的中する。というのは、テッドは完全に「視えない」人だからだろう。彼は「視える」世界があることなどまったくの嘘偽りでしかなく、そんなことを信じている輩は無知蒙昧な連中だ。そんなふうに考えていたかもしれない。だからこそ、テッドはダーシーが用意した罠に、みすみすハマりにいくことになったというわけだ。
それでもテッドみたいに割り切れる人のほうが少ないんじゃないだろうか。オカルト的なものは信じていないとは言っても、もしかすると「もしかする」ということもあるわけでと感じてしまうのだ。だから自分だったら、ラストのアレは無視して丁重にお返しすることになるだろうと思う。やっぱり怖いからだ。
今でも昔の迷信みたいなものに左右されることがある。現実世界はやはり科学がすべてで、それからしたら呪いとか霊とかオカルト的なものはあり得ないことになる。それでもなぜかそういうものは未だに消えていってしまったわけではない。まだまだしぶとく残っている。どこかで未だに「視えない」ものを怖れているところがあるのだろう。
そんなものはまったく信じていないにもかかわらず、そうした怖さは捨てきれないというわけで、ホラー映画というものも決して消えることはないのかもしれない。




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