『殺し屋のプロット』 男の哀愁

外国映画

監督・主演・製作は『ビートルジュース ビートルジュース』マイケル・キートン

脚本は『爆走!!トムキャッツ』グレゴリー・ポイリアー

原題は「Knox Goes Away」。

物語

博士号を有するという異色の経歴を持つ凄腕の殺し屋ジョン・ノックス。ある日予期せぬ事態が降りかかる。急速に記憶を失う病だと診断され、残された時間は、あと数週間というのだ。やむなく引退を決意したノックスの前に、疎遠だった一人息子のマイルズが現れ、人を殺した罪をプロである父の手で隠蔽してほしいと涙ながらに訴える。刻々と記憶が消えていく中、ノックスは息子のために人生最期の完全犯罪に挑む──。

(公式サイトより抜粋)

マイケル・キートン監督作

マイケル・キートンが主演を務めるいわゆるフィルム・ノワール。今回はマイケル・キートン自身が製作と監督もこなしている。マイケル・キートンの監督作品としては第2作ということらしいのだが、グレゴリー・ポイリアーの書いた脚本が気に入って、自ら監督役も買って出たということのようだ。

『ビートルジュース』で初めてその存在を知って以来、マイケル・キートンは何となく気になる人だ。『ザ・フラッシュ』でも一番気分が上がったのは、やはりマイケル・キートン演じるバットマンが登場したところだった気がする。そんなわけで『殺し屋のプロット』も、マイケル・キートンが好きな人には楽しめる作品なんじゃないだろうか。

殺し屋が主人公のノワール作品とはいえ、派手なアクションなどはほとんどない地味な作品だ。渋いジャズをバックにして、影のある男の姿が描かれる。そして、何よりマイケル・キートンが気に入ったとされる脚本がなかなかよく出来ていて、感動的なラストが待っているのだ。

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記憶を失っていく殺し屋

「急速に記憶を失う病」ということからか、鑑賞前に『メメント』と比較するようなコメントを見かけていたのだが、本作の病気は認知症のような症状だった。『メメント』の場合は前向性健忘という記憶障害だったが、本作で主人公のジョン・ノックス(マイケル・キートン)が侵される病はクロイツフェルト・ヤコブ病というものだ。

クロイツフェルト・ヤコブ病は、症状の初期がアルツハイマー型認知症のように見えることがあるらしい。劇中のノックスは特に進行が早く、数週間のうちに真っ当な意識というものが保てなくなってしまうと医者から宣告されることになる。

たしかこの病気は、かつての狂牛病の騒動の時に話題になったことがあったはずだ。狂牛病にかかった牛の姿は、当時はニュースなどで何度も見かけた。狂牛病にかかった牛は脳がスポンジ状なってしまうとかで、身体が痙攣して立ってられないような状態になってしまう。

クロイツフェルト・ヤコブ病というものも、症状としては狂牛病によく似ているとされる。Wikipediaの記載によれば、この二つの病は「同一病原体によるものと現在のところ結論されている」ということらしい。

そんな厄介な病に侵されてしまったノックス。彼は冒頭から認知症的な症状が見え隠れする。出かける用意では時計を忘れ、注文したばかりのコーヒーのこともあっという間に失念する。

ノックスの病は少しずつ酷くなっていく。後半になると意識の混濁みたいな映像も混じり込んでくる。ボケ老人のように森の中を徘徊しているシーンでは、ビスタサイズだった映像が一瞬だけスタンダードサイズになったりもする。どんどん真っ当な意識を保つことが難しくなっていくのだ。こんな状態だから仕事にも支障を来たすことになる。

ノックスの仕事は殺し屋だ。相棒と二人でターゲットの家を押し入り仕事をこなすはずが、ノックスはとんでもないミスを連発することになる。彼はターゲット以外の女性を殺し、さらには相棒まで殺してしまうことになるのだ。そんなわけでノックスは引退を決意することになるのだが……。

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記憶が消える前に、罪を消せ

ところがノックスが引退を決意した頃、突然、息子のマイルズ(ジェームズ・マースデン)がやってきて父親に助けを乞うことになる。マイルズは自分の娘を傷つけられたことに逆上し、相手の男を殺してしまったのだという。

疎遠だったマイルズが頭を下げてやってきたのは、ノックスの仕事が何であるかを知っていたからだし、ノックスなら何とかしてくれると踏んだからだろう。そんなわけでノックスは引退間際にひとつの大仕事をやり遂げなければならなくなるのだ。

ただ、この仕事は厄介だ。マイルズは娘をレイプされたと感じていて(娘は「違う」と否定しているのだが)、とにかく逆上した状態で男をメッタ刺しにしている。しかもその時に自分の手を傷つけてしまっていて、現場にはマイルズの血もたくさん飛び散っていて、その血を始末することは不可能な状態だ。ノックスはどうやってマイルズの罪を消すつもりなのか?

ノックスは防犯カメラの映像を削除したり、凶器やら指紋やらに何かしらの細工をしているのだが、ノックスの真意は観客にはよくわからない。それが明らかになるのはラストなのだが、このラストがとてもよかったのだ。

※ 以下、ややネタバレもあり!

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Knox Goes Away

本作は邦題にも意識されているけれど、「プロットありき」のところがある。だからそれをネタバレしてしまったら、作品の見どころを損なうことになってしまうかもしれない。だからラストについて詳しく記すのは控えておくことにする。

『殺し屋のプロット』は、役者であるマイケル・キートンが製作と監督も務めているということもあって、なかなか渋い役者陣が揃っている。一番の見どころはアル・パチーノとの共演かもしれないけれど、父親であるノックスに泣きつくことになるマイルズを演じたジェームズ・マースデンもなかなか渋い。この人は『X-メン』シリーズでサイクロプス役をやっていた人だ。いつもサングラスをかけているという設定だったため、今回初めて顔を知った気もする。

一番印象的だったのは、ノックスが毎週木曜日に会っていた売春婦アニーを演じたヨアンナ・クーリクかもしれない(彼女は『COLD WAR あの歌、2つの心』も印象に残っている)。ちょっとだけセクシーな役柄で、ラストでも状況をかき回す役回りを演じる。

以下はややネタバレだが、ノックスが記憶を失う前に資産を残そうとしていたのは3人だ。ひとりは元妻で、もうひとりはマイルズ。そして、最後のひとりがアニーだったのだ。ノックスは奥さんにも逃げられ、マイルズとも疎遠な関係だった。アニーという売春婦を3人の中のひとりとして選んでいたのは、ノックスの孤独というものが際立つというものだろう。

ノックスがアニーを気に入っていたのは、本の話ができたからだろうか。アニーは毎週ノックスから本を借り、その感想を次の週にノックスと話し合っていた。ノックスは哲学好きの風変りな殺し屋で(実は学位も持っている)、あだ名でアリストテレスなどと呼ばれていたりもしたのだ。そんなノックスの気持ちをアニーは知る由もなく、余計なことをしてしまうことになる。

「忘却とは救いである」とも言う。確かにノックスは自ら相棒を殺してしまったことなど、忘れることが救いになることもあるだろう。しかしその一方で自分のしたことを記憶していられないということは、自分というものの連続性があやしくなってくるということでもある。

ノックスがしたことは知られてはならないことだ。尤も、彼は記憶ができない状態になるわけでそれでも支障はないのかもしれない。とはいえ、自分が成し遂げたことを自分でも忘れてしまうというのは一面の寂しさもあるだろう。

最近の『満江紅/マンジャンホン』においては、歴史に名が刻まれるということの意義が重要視されていた。特に中国では、歴史は「聖書」ともされるほどなのだとか。とはいえ、それはほかの国でも似たりよったりとも言えるかもしれない。

しかしながらノックスがしたことは、その性質上誰にも伝えられることがない。一部の人はノックスの成し遂げたことを知っている。けれどもそのことは墓場まで持っていかなければならないことになるわけで、多くの人には誤解されたまま去っていくことになるノックスの姿に哀愁みたいなものを感じた。

 

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