『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』 三代に渡る夢

外国映画

監督は『エイリアン』『最後の決闘裁判』などのリドリー・スコット

脚本は『ナポレオン』などのデビッド・スカルパ

主演は『aftersun/アフターサン』ポール・メスカル

物語

ローマ帝国が栄華を誇った時代――。
平穏な暮らしを送っていたルシアス(ポール・メスカル)は、将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)率いるローマ帝国軍の侵攻により愛する妻を殺され、捕虜として拘束されてしまう。すべてを失いアカシウスへの復讐を胸に誓ったルシアスは、謎の奴隷商人・マクリヌス(デンゼル・ワシントン)に買われ、ローマへと赴くことに。そこで剣闘士《グラディエーター》となった彼は、復讐心を胸に、力のみが物を言うコロセウム《円形闘技場》で待ち受ける戦いへと踏み出していく――。

(公式サイトより抜粋)

あの傑作の続編

リドリー・スコットは現時点で86歳ということだが、まだまだ衰えというものを知らないらしい。去年の『ナポレオン』も超大作という風格を持つ作品だったが、今度はアカデミー賞において作品賞まで獲得している『グラディエーター』の続編だ。

リドリー・スコットのフィルモグラフィを見ると、『エイリアン』『ブレードランナー』だけでも十二分に映画史に名を残す功績だが、それ以外にも多くの優れた作品が目白押しだ。個人的にはデビュー作である『デュエリスト/決闘者』からしてすでに素晴らしい出来栄えだったと思うし、『悪の法則』の陰鬱さも忘れがたい。

そして、もちろん『グラディエーター』も傑作と呼ぶに相応しい作品で、リドリー自身はアカデミー賞の監督賞はもらえてなくても、彼が最も優れたフィルムメーカーのひとりであることに異議を申し立てる人はいないんじゃないだろうか。

前作から24年ぶりの続編『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』も、期待に違わぬ充実ぶりで148分というなかなかの長尺にも関わらず、冒頭の派手な戦いから一気に最後まで見せてしまうようなエンターテインメント作品になっている。見せ場となっているローマのコロセウムでの戦いも満載で、まさに映画館で観るべき作品になっているのは間違いない。

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

骨組みは前作と同じ

この続編を観るに際して事前に前作を復習してから劇場に赴いたわけだが、そうするとよくわかるのがこの続編が前作とそっくりだということだ。

妻子を殺された主人公がローマに向かい、グラディエーター(剣闘士)として戦うことになり、最終的には皇帝を倒すという骨組みはほとんど変わらないからだ。民のことなど考えたこともない皇帝に対し、裏で陰謀を企てようとする勢力がいるのも同じだし、様々な部分で前作を踏襲しているのだ。

中には続編を前作のリブートだと言っている人もいるけれど、それもあながち間違いではないのかもしれない。タイトルバックでは前作のおさらいっぽいアニメもあるし、極論すれば前作を観なくても楽しめる作品になっているとも言える。

もちろん主人公は交替している。前作の主人公であるマキシマスはすでに亡くなってしまっているわけで、続編の主人公はハンノ(ポール・メスカル)という男だ。このハンノは最初はその素性が伏せられているけれど、実はマキシマスの息子ルシアスの成長した姿であることが明らかになってくる。

前作の最後でマキシマスは死に、ルッシラ(コニー・ニールセン)は次期の皇帝候補として命を狙われる可能性のあるルシアス=ハンノをアフリカの土地へ逃したということらしい。それから長い年月が過ぎ、ルシアスは過去を忘れて生きていたわけだが、そこへローマ軍が攻めてくるというのが冒頭の場面だ。

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

この冒頭の海戦がとても素晴らしい出来栄えだったと思う。観客を映画の世界に引き込むのに十分なインパクトがあり、投石器の凄まじい威力で当時の戦争を再現しつつも、ローマ軍のアカシウス将軍(ペドロ・パスカル)の勇ましさもサラリと描かれている。かなり金のかかったシークエンスと思われるけれど、意外にも潔い短さで切り上げるところがうまいところだろう。

この戦いでルシアスは妻を喪い、奴隷として買われてグラディエーターとして戦いの場に身を置くことになっていくというわけだ。ルシアスがマキシマスの息子であり、祖父マルクス・アウレリウスの“ローマの夢”を継ぐ者であることを自覚するまでの物語の合い間に、派手な戦いの場面を小気味いい感じで挟み込み、ひとつのシークエンスをダラダラ長引かせないから長尺でも観客を退屈させることがないのだ。

三代に渡る夢を実現するラストはなかなか感動的でもあった。前作ではその夢が破れてしまっていただけに……。

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

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エンタメに徹している?

前作は約1900年も前のグラディエーターの戦いをリアルに再現した点が見事だったけれど、続編はもっとエンターテインメント色が強い気もした。それが顕著なのがルシアスのグラディエーターとしての最初の戦いに登場するサルの姿だろう。

このサルは何か変な薬でも盛られたかのような暴れっぷりで、そのとち狂った顔はとてもリアルな猿とは思えないゲテモノと化している。前作のトラがかなりリアルに描かれていたのとは対照的だろう。前作からCGの技術も進化しているわけで、これは意図的な表現ということなのだろうと思う。

リドリーは『ナポレオン』の時に、歴史学者とかが「史実と違う」などと文句を言っているのを軽く一蹴していたようだ。リドリー曰く、「お前がその現場にいたならともかく、いないんだから黙ってろ」ということらしい。映画はそもそもフィクションなわけで、そんな的外れな意見を黙らせるためにもフィクションであることを強調したような猿の描写になっていたということなのだろう。

猿の次にはサイも登場するけれど、このサイはとんでもなくお利口さんなのか、まるで象使いが象を操るかのように、サイを乗り物のように取り扱って戦うことになる。さらにその後はコロセウムをプールのようにし、そこで海戦を再現する場面となる。コロセウムでの海戦の再現自体は史実にもあることらしいのだが、そこにサメがうようよしているというのはフィクションだろう。人気の「サメ映画」まで取り入れてしまった続編は、エンターテインメントに徹しているということなのかもしれない。

その分、続編はアカデミー賞の作品賞には縁がなさそうな気もするけれど、楽しめる作品になっていることは言うまでもない。前作はラッセル・クロウが演じた主人公も魅力的だったけれど、それと“がっぷり四つ”に組む形でシスコンの皇帝を演じたホアキン・フェニックスがインパクト大だった。

それから比べると、続編の共同皇帝は幾分か悪役としての器は小さく見えてしまう。その代わりとして後半になって急に存在感を増してくるのが、デンゼル・ワシントン演じるマクリヌスという男だ。このキャラは魅力的だったけれど、主人公であるルシアスがそれと“がっぷり四つ”になっていたかというと疑わしいかも……。それでも続編もだいぶ健闘しているんじゃないかと思う。

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