監督は『トップガン マーヴェリック』のジョセフ・コシンスキー。
ほかにもプロデューサーのジェリー・ブラッカイマー、脚本のアーレン・クルーガーなど、『トップガン マーヴェリック』のスタッフが集結している。
主演は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブラッド・ピット。
物語
かつて“天才”と呼ばれた伝説のF1®レーサー、ソニー(ブラッド・ピット)が、再びサーキットに戻ってきた。誰よりもレースの過酷さを知る男が現役復帰を果たした先は、どん底の最弱チーム。しかし、常識破りなソニーの振る舞いに、自信家のルーキードライバー・ジョシュア(ダムソン・イドリス)やチームメイトたちは困惑し、度々衝突を繰り返す。バラバラなチーム、そして、最強のライバルたち。敗北が濃厚となる中、ソニーの“常識破りの作戦”が最弱チームを導いていく――!果たして彼らは、その無謀とも言える賭けで逆転できるのか?それぞれの情熱と誇りを胸に、命がけで夢<スピードの頂点>へ挑む!
(公式サイトより抜粋)
ベタなエンタメ作品
モータースポーツというものにあまり興味がないので、F1についてもほとんど何も知らない。どうやらモータースポーツの最高峰に位置するらしいというくらいの理解でしかない。
テレビなどでもF1をまともに見たことすらないのだが、本作の劇中で描かれるF1の大会を見ていると、お祭り騒ぎみたいになっている。レース前には国歌を斉唱し、ジェット機が飛んだりしているのだから、そのお祭りっぷりはオリンピックか何かなのかと思うほどだった。そのくらい人気があるし、金も動くスポーツということなのだろう。
本作のタイトルの「F1」の横には、「®」というよくわからないマークが付いている。これは登録商標ということらしい。F1の大会を運営しているところから許可を得て製作しているということらしい。正式なところのお墨付きを得ているということで、レース場もマシンなどもF1からの協力も得ているということらしい。それだけに迫力のあるレースシーンを見せてくれるのだ。
ちょっと前に久しぶりにIMAXで『メガロポリス』を観たけれど、本当はこういう派手な体感型の映画のほうがIMAXには適しているのだろう。今回は普通の2Dで観たけれど、IMAXだったら余計に迫力があって楽しめるのかもしれない。
物語的にはごく単純だ。『トップガン マーヴェリック』の時にも感じたことだけれど、ベタなエンターテインメント作品で難しいことは何もない。そして、そこにブラッド・ピットというスターがいるわけで、面白くないわけがないという作品になっている。

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映画的な要素?
かつてはF1の世界で嘱望される若者だったソニー(ブラッド・ピット)も、今ではそれは見る影もない。バンの車中で暮らしながら、渡り鳥的にあちこちのレースに出場しながら気ままに暮らしている。そんなところへかつての友人ルーベン(ハビエル・バルデム)が現れる。彼は元レーサーでかつては一緒に切磋琢磨した仲なのだ。
そんなルーベンは多額の借金をしてF1チームを買ったのだとか。ところがチームは全然勝つことができずに絶体絶命の状態らしい。このままだと投資家がチームを売りに出すことになるとかで、ルーベンとしてはソニーにチームに入ってもらって窮地を脱したいのだ。
最初、ソニーは過去の人だと思われている。天才的なドライバーだが、まだ若造のジョシュア(ダムソン・イドリス)は、ソニーと度々ぶつかることになる。チームの監督も最初はソニーに反発する。ところが実際に走ってみるとソニーの凄さがわかってくる。そうなってくるとチーム全体がソニーのやり方についていく感じになっていく。そうやってチームが一丸となってレースに向かうことになっていくのだ。
ソニーはやっていることは常識破りだけれど、チームのメンツには妙に気遣いもあったりして、決して間違ったことを言っていないことがわかってくる。ソニーの魅力がチームを一丸としていくことになるわけだが、それもソニーを演じているのがブラッド・ピットだからだろう。
F1レースの面白さは見ていれば伝わるのかもしれないけれど、それだけでは映画としては足りないと感じたのか、本作ではわかりやすい要素でハラハラさせることになる。それがタイヤの問題だろう。
タイヤは最初は温めなければ速くは走れないようで、そのために試運転みたいな時間があったりする。そして、長く走り続ければタイヤはダメになっていくわけで、ピットインしてタイヤを交換しなければならない。長いレース中でいつピットインするか、あるいはしないのかということが大きな問題になってくる。
そして、ソニーは違反スレスレのことを仕出かすズルい男で、レース中に起きるトラブルを最大限に利用して、チームの成績を上げようとすることになる。実際のレースでそんなことが起きるのかどうかはよくわからないけれど、映画的な要素としては観客のハラハラドキドキを煽るものとなっていて、私のような素人にもわかりやすくF1の魅力を伝えることになっていたんじゃないだろうか。

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ブラピ主演のスター映画
『F1®/エフワン』ではF1のレースが描かれるわけで、ソニーたちのチームAPX(エイペックス)に対してライバルのチームがあるはずだ。尤も、APXは最初は最弱のチームと呼ばれていたから、ライバル視するのもおこがましいということなのかもしれないけれど、とにかく本作ではライバルとなるチームの顔はまったく見えてこない。というのも、ソニーはレースで1位を獲得するために走ってはいるけれど、彼の目的は誰かを負かすことでもないし、レースに勝つことでもなかったからなのかもしれない。
そんな本作で唯一の悪役なのは投資家の男(トビアス・メンジーズ)だろう。ほかの登場人物がみんなF1が好きでやっているにもかかわらず、この投資家だけはF1を投資のネタとしてしか見ていない。
最初に過去の人だったソニーをチームに入れようと画策したのも、それによってチームをさらにガタつかせて買い叩こうとしていたからだ。ところが、それが逆にうまく行ってしまった後には、今度はチームとソニーをセットにして高値で売り出そうとしているらしい。ソニーとしては大金持ちになるチャンスだったけれど、ソニーはそれに対して中指を立てて拒否することになる。

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そもそもソニーは何のために走っているのか? その問いは本作で何度も繰り返される。金のためじゃない。金のためと言っていたのはジョシュアだった。名誉とかプライドとかの問題でもない。それを求めていたのはピットクルーのリーダー・ケイト(ケリー・コンドン)だった。結局はソニーが走っていたのは、走るのが好きだったからだ。ただ、それだけなのだ。
ソニーがケイトと夜を過ごした後に語っていたのは、ソニーが走り続ける中で求めているものだった。それは所謂“ゾーン”に入った瞬間なのだろう。ラストでソニーが経験するのも、そんな「静寂の世界」とでも言うべきもので、ただそんな瞬間に再び出合いたいがためにソニーは走っているのだ。この点でル・マン24時間レースを題材とした『フォードvsフェラーリ』とも通じ合うものがあったと思う。
結局ソニーは、チームに初めての勝利をもたらすことになる。チームをダメにしようとしていた投資家の策略をぶち壊したにもかかわらず、それについては誰に知らせることもなく去っていく。その姿がとても粋でカッコいい。賞金稼ぎとして現われた男が、正義の味方になってこっそりと悪を退治して去っていく、そういった西部劇みたいだった。
だからソニーはF1で勝利を得ても、また別の場所へと向かう。そして、次の目的地にもレースがある。ソニーの決め台詞に「走った先で会おう」というものがあった。これは英語では「See you down the road.」となっている。どこかで聞いたような言葉だと思っていたけれど、アメリカの車上生活者たちの暮らしを描いた『ノマドランド』でも使われていた台詞だ。
「down the road」というのは、字面だけ見ると「道の先で」ということになるけれど、それ以外にも「将来」とか「未来」などを意味する言葉なのだそうだ。だから「See you down the road.」というのは、「将来どこかで会いましょう」といった意味合いということになる。何の約束もできないけれど、また会えたらいいね、そんなニュアンスがあるということなのだろう。自由気ままに放浪しているソニーだからこその台詞というわけだろう。
レースが終わって去っていくブラッド・ピットのさわやかな表情は、かつての『リバー・ランズ・スルー・イット』あたりで見た時のブラッド・ピットとあまり変わってないような気もして、改めてそのスター性を確認したような1作だった。
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