原作は河部真道による漫画『鬼ゴロシ』。
監督は『メランコリック』の田中征爾。
主演は『彼らが本気で編むときは、』の生田斗真。
Netflixオリジナル作品として2月27日より配信中。
物語
裏社会を震撼させてきた伝説の殺し屋・坂田周平は、愛する妻と娘との平穏な暮らしのため、殺し屋稼業からの引退を決意する。しかしある時、事態は一変。坂田が暮らす地方都市・新条市を裏で牛耳る謎の組織「奇面組」に、愛する家族を殺されてしまう。何よりも大切な妻子を奪われた坂田は復讐を誓い、マサカリ1本を手に取り、敵のアジトに潜入して暴れ回る。ところが、殺されたと思っていた娘のりょうは、奇面組メンバーの伏勘太の慰み者になるため育てられていた。怒りが最高潮に達した坂田は復讐の鬼となり、りょうを取り戻すためにも敵を容赦なく葬っていくが……。
(『映画.com』より抜粋)
妻子を殺された男の復讐譚
Netflixで配信中のアクション映画。主人公の坂田周平(生田斗真)は伝説の殺し屋という設定だ。ところが坂田は、舞台となっている架空の街・新条市を牛耳る男たち「奇面組」に、妻(木竜麻生)と娘を殺されることになる。さらに坂田自身も瀕死の重症を負い、廃人のようなあり様に。それから12年後、なぜか意識を取り戻した坂田は復讐を開始する。
なかなか派手なアクションが展開するものの、ダッジ・チャージャーに乗って独りで敵陣に乗り込んでいき、接近戦で相手を倒していく姿は『ジョン・ウィック』シリーズなんかをイメージさせてしまう。かといって、『ジョン・ウィック』ほどアクションが凄いのかと言えば疑問符が付くことになるわけで、ちょっと微妙な感じになってしまっている。配信作品ということもあり、この作品だけに特別に金を払っているわけではないし、出演陣は豪華だったりもするし、そこそこ楽しめないわけでないのだけれど……。
ほとんど破れかぶれにも見える坂田の行動は、マサカリ1本で銃を持つ敵に立ち向かうというもの。何度も弾が当たっているにもかかわらずゾンビの如く立ち上がり、血みどろの闘いを繰り広げていくことになる。

『Demon City 鬼ゴロシ』 Netflixにて配信中
ターゲットは全世界
もともとの原作は日本の漫画『鬼ゴロシ』という作品らしい。それをNetflixがオリジナル作品として実写映画化したものだ。日本での劇場公開ではなく、Netflixにて配信されるということになると、ターゲットは全世界の人々ということになる。本作は世界標準を意識したあまりに、かえって中途半端になってしまっているところがあるのだろう。
私は漫画原作を読んだことはなかったけれど、無料で読める部分もあったので少しだけは目を通してみた。当然ちょっと齧っただけというわけだけれど、それでもわかることはある。漫画のほうは日本の伝統的なものをうまく取り入れた作品になっているのだ。
“鬼”という存在もそうだろう。しかしながら、“鬼”という存在を海外の人にうまく説明するのが難しいからか、映画版ではタイトルに「Demon City」というものが加わっている。“鬼”を悪魔の類いとして扱っているというわけだ。ただ、それによって失われたものもある。

『Demon City 鬼ゴロシ』 Netflixにて配信中
主人公は坂田周平という名前だが、別名では坂田金時とも呼ばれていて、これはいわゆる金太郎のことを指している。「マサカリ担いだ金太郎」だから、坂田の武器もマサカリとなっているのだ(実は、映画のそれはマサカリではなく、特殊なナタになってしまっているのだけれど)。
映画版では、そういった「日本人ならわかるけれど」という設定は、一切省いてしまっている。全世界の人へ向けてということを意識したあまり、アクションの部分ばかりが目立つことになり、『ジョン・ウィック』の亜流みたいな作品になってしまっているのだ。
それから舞台となっている新条市という場所には、「鬼伝説」というものがあり、歴史上繰り返し“鬼”が現われることになったという背景があるのだが、映画版ではそういう部分はあまり深く掘り下げられることもない。
ちなみに「鬼ころし」というのは、日本酒の名前としても知られているけれど、将棋の戦法にある奇襲作戦「鬼殺し」のことを指すものらしい(漫画原作にはそんなふうに書かれている)。劇中の“鬼”というのは誰のことを指すのかと言えば、坂田のことになるのだろう。坂田は“鬼”が憑りついて妻と娘を殺して自殺したことにされてしまったのだから。
ラスボスと言える新条市の市長(尾上松也)は、現実世界に“鬼”を出現させたいと思っている変人でもある。実は“鬼”というのは、極限まで追いつめられた人がそんなふうに変化するということなのだが、ラストで返り血を浴びて赤く染まった坂田が“鬼”に見えるほどケレン味があったかというと、否定せざるを得ない気がする。

『Demon City 鬼ゴロシ』 Netflixにて配信中
実写化は間違い?
そんなわけで『Demon City 鬼ゴロシ』は、「何をやりたかったのか」という気がしないでもないわけなのだが、漫画原作をちょっとだけ読んでみると、そもそも実写映画化自体が間違いだったような気もしてしまう。
よく「実写化不可能」なんて言い方をされる作品があるけれど、この原作漫画もそういう類いの作品なのだろう。たとえば漫画『北斗の拳』には、実写化作品もあるようだが、途轍もない駄作になるであろうことは火を見るよりも明らかだろう(実際に観てはいないけれど)。
漫画『北斗の拳』の魅力は、原哲夫の描く絵にあるわけで、実写ではそれは無理なのだ。『北斗の拳』の場合は、アニメーションもあったけれど、これもオリジナルの漫画ほど魅力的なものになってなかったのは、原哲夫の絵をアニメーションとしても再現することが難しかったからだろう。
本作の原作漫画『鬼ゴロシ』もそういう類いの作品なのだ。漫画のキャラクターはみんなかなりの誇張された存在で、異形の者たちと言える。原作漫画はそんなキャラが活きた作品であって、それをリアルな世界でやってしまうというのがそもそも無理だったのかもしれない。
田中征爾監督は『メランコリック』という作品でデビューした人。『メランコリック』は殺し屋が出てきたりはするものの、のん気な感じの会話が魅力的だったコメディで、そこがとてもよかったのだ。だからなぜ本作のようなシリアスでダークなアクション映画の監督を引き受けたのかはわからないけれど……。
田中監督の作品としては『死に損なった男』も現在劇場公開中だそうで、こちらはコメディ作品のようで観客の評判も悪くはなさそうだ。そっち方面のほうが向いているということかもしれない。
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