『デッドマンズ・ワイヤー』 ひとり相撲

外国映画

監督は『追憶の森』などのガス・ヴァン・サント

主演は『ノスフェラトゥ』ビル・スカルスガルド

物語

不動産投資会社メリディアン・モーゲージ社に財産をだまし取られたと主張する男トニーは、同社に押し入り、社長の息子で同社役員のディックを人質に取る。トニーは自分と人質の首をショットガンとワイヤーで結びつけ、動けば発砲される仕組みの「デッドマンズ・ワイヤー」を用いて立てこもり、警察も手出しできない状況を作り出す。現場からメディア出演を行うなど異例の行動を続ける中、世論は彼を非難する声と同情する声に分かれていく。膠着状態を打開しようと警察が突入に備える中、ついにトニーと社長が電話で話すことになるが……。

『映画.com』より抜粋)

事実は小説より奇なり?

『デッドマンズ・ワイヤー』で描かれる事件は、実際に起きた事件なのだそうで、エンドロールでは実際の映像が使われたりもしている。本作はその事件の顛末を追っていく。

冒頭は、トニー(ビル・スカルスガルド)という主人公が、車であるビルに乗りつける場面だ。トニーはそのビルで不動産ローン会社メリディアン・モーゲージ社の社長と約束をしているのだという。

ところが社長は不在で、その代わりに息子のディック(デイカー・モンゴメリー)が現れる。トニーは社長がいないことに文句を言いつつも、打合せに応じることになり会議室へと向かう。そこでトニーはディックに銃を突き付けて自分が作った“デッドマンズ・ワイヤー”という装置を括りつけることになる。

この装置はディックの首とショットガンを固定して、ディックが逃げようとしたり、あるいはトニーが撃たれたりすれば自動で発砲されることになる装置だ。トニーはディックを人質にとり、メリディアン・モーゲージ社からの謝罪や補償を訴えることになるのだが……。

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誰も手出しできない状況

銃を突き付けて人質をとっても、アメリカのような銃社会では、犯人が銃撃されてしまえば一瞬で事件は解決しまう。人質事件の多くはそんなふうに終わったりすることも多いわけで、トニーはそれを防ぐために“デッドマンズ・ワイヤー”という装置を考え出したというわけだ。これによって警察はヘタにトニーに手を出すことができなくなる。

トニーはそれをいいことに、堂々と警察たちが包囲する場所を突っ切っていく。そして、パトカーを奪いディックに運転させ、トニーの自宅で籠城することになる。

トニーの主張はこうだ。メリディアン・モーゲージ社に騙されたというのだ。彼はある土地に目を付け、そこにショッピングセンターを作る計画をしていた。その計画はほとんど決定しかけていたのに、最終的には頓挫してしまい、トニーは多額の借金を背負うことになってしまう。それを邪魔したのがメリディアン・モーゲージ社だというのだ。

トニーはその不正を暴くとして、事件を引き起こしたというわけだ。最初の計画では人質にとるのはM・L・ホール社長(アル・パチーノ)だったらしい。ところがM・Lは約束を反故にしてフロリダに旅行中で、仕方なしに息子を代役にすることになる。

トニーの中で一番大事なのは、M・Lに謝罪させることだ。それが彼の一番譲れない点らしい。そのためにトニーは世間に訴えることになる。“インディアナポリスの声”と呼ばれるDJ(コールマン・ドミンゴ)を味方につけ、メディアにアピールして世間に不正を訴えることになるのだが……。

※以下、ネタバレあり! 事件の結末についても触れているので要注意!!

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意外な結末?

事件の結末を知っている人はともかくとして、トニーは人質に銃を突き付けているわけで、なかなかハラハラさせる設定だ。そんな意味では十分に楽しませてくれる作品になっている。

けれども結末はちょっと拍子抜けだった気もする。トニーは警察に手出しをさせない点では、うまく立ち回ったけれど、その先はほとんど何も考えてなかったように見えてしまう。

警察はトニーに譲歩する。社長の謝罪はなかったけれど、借金は帳消しにされ、さらに500万ドルの金を補償させることになる。そんな契約が成立したと思ったトニーは、ディックを解放するものの、途端にトニーは逮捕されることになってしまうのだ。

人質事件を起こした犯人が、無罪放免になるなんてことはあり得ないはずだ。ところがトニーはそういうところでは間が抜けているということなのか、契約書を交わせば問題なしと判断してまんまと警察に騙されてしまうことになる。

そんなわけでトニーは逮捕されるけれど、その後の裁判の結果が意外なものだった。トニーは心神喪失状態にあったとして無罪になるのだ。陪審員はトニーに対して同情的だったということなのだろうか? 裁判に関しては、結果だけしか示されないため、どうしてトニーが無罪を勝ち取ることになったのか本作を観るだけではよくわからないのだ。

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脚本に難あり?

『デッドマンズ・ワイヤー』はトニーが人質をとるところから始まり、事件の経過を順を追って描いていく。過去の出来事が挿入されたり、視点が外部に移行することもほとんどない。基本的にはトニーの視点で時の経過が追われる。

トニーはメリディアン・モーゲージ社の不正を訴えるけれど、それに対する世間の反応というものは見えてこない。メディアが事件に関して盛んに報道していることはわかるけれど、それに対する世間の反応はよくわからないのだ。だからラストで裁判結果が示されると、それが意外なものに感じられてしまう。

たとえば、同じように実際の人質事件を描いた『狼たちの午後』の場合、主人公は世間から一種のヒーローのように持ち上げられることになる。その主人公を演じたのが、本作にも登場するアル・パチーノだ。本作もトニーがショットガンを長い箱につめて登場するあたりで、『狼たちの午後』を意識しているのを感じる。

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それに対して本作の場合、外野の反応がほとんどないために、すべてがトニーのひとり相撲のようにも見えてしまう。トニーはM・Lの不正を主張するけれど、それを裏付けるものは何もない。

M・Lは謝罪を要求されるけれど、息子の命を救おうとはせずに、トニーに説教めいた言葉を投げかける。「実が熟すまで枝は揺らすな」みたいな言い方をしていたけれど、これは「トニーがバカだっただけだ」と言いたいのだろう(トニーには意味不明だったようだけれど)。

確かにトニーは間抜けだろう。だからこそ事件の結末は呆気ない。ところが裁判結果は間抜けなトニーが無罪を勝ち取ってしまう。そこが意外なわけだが、本作の裁判は駆け足で終わってしまうために、何だかよくわからないのだ。

ラストはその後のトニーとディックのエピソードになっている。事件後に二人は一度だけ顔を合わせたということらしい。これが事実なのかはともかくとして、本作は基本的にトニーの視線で描かれていくために、籠城した家にいる二人の関係に焦点が合わされることになる。

間抜けな犯人と、親の代わりに事件に巻き込まれた上に見捨てられるかわいそうな人質。そんな二人の関係だ。この事件が悲劇的な結末にならなかったのは、犯人も人質も、相手に対してちょっとばかり同情しているところがあったからなのだろう。

とはいえ裁判結果を決めるのは二人ではない。裁判結果は陪審員が決めることになるわけで、それは世間が事件をどう見ていたのかということになる。本作はそこが見えてこなかったために、何を狙っているのかがよくわからなくなってしまっている気がした。

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